体験ルポ・スウェーデンと日本のグループホーム

 

その5

 

グループホームの3つの大きな壁


1. 介護保険の不公平  

 グループホームは、介護保険の正式メニューになりましたが、ひとりの痴呆症のお年寄りにグループホームでは、平均252千円介護保険からお金が出ます。老人ホームだと32万円。老人保健施設だと35万円。痴呆病棟だと43万円。 

 同じ痴呆症のお年寄りです。 

 たとえば同じ要介護3の痴呆症のお年寄りが、グループホームに入ったら252千円、介護保険から出る。50人の痴呆病棟(グループホームより居心地が悪い)にはいったら43万円出る。 

 なぜ同じ痴呆症のお年寄りで、行き先によって、2倍近くも報酬が違うのか? 

 これは不公平です。 

 私は現在、このことについて、厚生省と交渉しています。 

 

 

 
2.
単独型には、建設補助金がでない 

  グループホームを建てるときに、改修費でも3000万円〜4000万円。新築だったら5000万円〜7000万円かかる。 

 グループホームへの補助金は、厚生省は、併設型なら上限3000万円まで出す。具体的には、老人ホーム・病院・デイサービスセンターに併設なら3000万円補助金を出すけれども、一戸建て、地域の中の一戸建てだったら補助金はゼロか、場合によっては出ても500万円までです。 

 その結果、全額自己負担で建築するのは無理だから、併設型を建てようと、併設型がどんどん増えています。 

 単独型という地域の中に造りやすいのは増えない。 

 単独型の場合、保証金や入居一時金を200から500万円とり、建設費を捻出するケースも増えています。しかし、特別養護老人ホームや療養型病床よりも介護保険からの介護報酬が低いにもかかわらず、なぜ、グループホームの利用料は非常に高くならねばならないのでしょうか。おかしいと思います。 

 単独型が増えない理由 

 厚生省の危惧は、グループホームを、地域の中にぽつんと作ったら、夜間の緊急時のことなどで不安が残る。ところが大きな老人ホームや、病院の敷地内にあれば、なんらかのことが起きても、施設がバックアップするから、行政としては安心だ。事故も起こりにくい、と考えるのです。 

 私はそれも一理あると思います。しかし、それは行政の論理です。併設型しか建設補助が出来ないのだったら、単独型は、いつまでたっても地域の中に建てられないのです。 

本当に良いグループホームが増えない 

 地域の中になければ、グループホームの本当の良さが、なかなか発揮できないでしょう。ですから私は、併設型のグループホームも、もちろん増えたらいいと思いますけれど、やっぱり地域の中の単独型が、増えるようにしてほしい。そのためには、単独型にも2000万円〜3000万円の、建設補助金が出るように、しないとだめです。 

 私のもとに、多くの方が、「グループホームを作りたい」と、相談に全国から来られます。連日、電話、FAX、メールで問い合わせが殺到しています。だから、このホームページもグループホームのメールマガジンもつくることにしました。 

 皆さんがおっしゃられることは、「グループホームを造りたい。それほど儲けようとは思っていない。ただ、とんとんでいい(黒字も赤字もなし)」ということです。今の状態では、残念ながらとんとんも苦しい、ですから増えないのです。 

 


3.
自己負担が倍 

 介護保険では、老人ホームや老人保健施設は一割負担です。自己負担が67万円になります。ところがグループホームの自己負担は月1016万円が相場です。つまり、老人ホームや老人保健施設の、自己負担の2倍なのです。なぜか? 

グループホームは
在宅サービスだから自己負担が高い?
 
 

 行政の説明では、「グループホームは在宅サービスですから、家賃と食費は全額負担。ですから割高になるのです」ということです。 

 しかし、グループホームを在宅サービスと決めたのは、勝手に行政が決めたのでしょう。その勝手に決めたせいで、なぜ全く同じ痴呆症のお年寄りが、老人ホームに入ったら約6万ー7万円で、なぜグループホームに入ったら2倍の1016万円も、払わないといけないのか? 私はその根拠は、ないと思います。「個室だから、自己負担は高い?」。でも、それなら、グループホームはそもそも介護保険の中で、比較的な裕福な人向けのサービス、あるいは、低所得者は利用しにくいサービスと位置付けられているのでしょうか。 

 

 

良いものが何故増えない? 

 このグループホームのホームページを見てくださって、「これは本当にいいな」とお思いになった方も多いでしょう。ところがこれはなかなか、増えません。採算がとれないからです。 

グループホームを造りたい、でもこれは採算がとれない。苦しい苦しい。これからはみんなが、「グループホームが採算が取れるように!」「せめて、夜勤体制がとれる人員・給料を!」「建設補助を!」と、声をあげていかないといけないと思います。 

 

先進的な宮城県の場合 

 宮城県は、グループホームの解説ビデオを作り、すべての市町村に配り、「グループホームはとても良いものですから、みなさんやってください」と県が呼びかけ、頼んでいるのです。 

 私も宮城県に何度かも呼んでいただいています。「やまのいさん、是非とも宮城県でグループホームを増やしたいから、講演に来てくれ」といわれます。ある講演では、150人程の宮城県内の医療法人・福祉法人の方を相手に、私がグループホームケアの説明をしました。県の人が「それほど儲かりはしないが、是非ともグループホームを立ち上げてください」と、グループホームの宣伝に必死になっているのです。 

 そのビデオに出演しておられる外山義先生は、グループホーム建築の大御所で、京大の教授です。このビデオは、宮城県から「やまのいさん。こういう取り組みをしています。ぜひとも見てください。」と私に送ってくださいました。宮城県のように、行政が必死になって、グループホームをつくりましょうと誘導しているところもあります。 

 

先進的な宇治市の場合 

 自治体では横浜市が16箇所くらいグループホームを整備しています。利用料は月1016万くらいです。 

 利用料が高くなり過ぎないように、月入居者一人あたり12000円の補助を横浜市は予定していますが、「利用料が11万円程度以下の場合に限り支給する」というような条件があるそうで、16のうち2つのグループホームしかその補助金は申請していないようです。 

 私は京都府宇治市に住んでいますが、宇治市では、2000万くらいを上限に、単独型グループホームに建設補助を出しています。これは、画期的なことです 

 宇治で、グループホームの取り組みに進んでいる、ひとつの理由をいいますと、宇治市では過去4,5年の間に、グル−プホームのシンポジウムが10回くらい行われました。その多くが私や私の仲間が主催したものです。 

 その結果、今回宇治市が介護保険のアンケート調査をとったら、他の自治体に比べて、2,3倍グループホームを利用したいという要望が多かったのです。 

要望が多かったから、宇治市もたくさん建てざるを得ないということになりました。 

 おまけにこんなに要望が高いのだったらと、京都では唯一、宇治市では単独型のグループホームにも、宇治市の単独の予算で2000万円建設補助を出しましょうと決定しています。 

 ですからこれもやっぱり、地域の声があがっていったので、宇治市も動いていく。これから全国で、声を大きくして、グループホムを我が地区に!と、がんばってほしいです。 

 繰り返しになりますが、「グループホームの方が高くつくからできない」というのならまだ分かるのです。グループホームの方が費用的にも安くつく。それにも関わらずできないということに対して、わたしは、これはおかしいと思っています。それでこのホームページを通じて、この問題について、みなさんと一緒に勉強をしていきたいのです。 

 


私が翻訳した本の宣伝
     「スウェーデンのグループホーム物語−ぼけても普通に生きられる」
                               (バルブロ博士著、ふたば書房)
 


 グループホームの生みの母といわれているスウェーデンのバルブロ・ベック・フリス先生が書かれた世界初・グループホーム手引きの本「スウェーデンのグループホーム物語 ぼけても普通に生きられる」を、わたしは親友の近澤貴徳君と一緒に2年間かけて日本語に翻訳しました。そして、ホルム麻植佳子先生に監訳してもらいました。 

 翻訳したのは1993年です。当時、出版社の人に言われました。「そんなグループホームなんか日本でニーズありませんよ。こんな本翻訳しても日本で売れませんよ」と、言われながら、4つ出版社まわりました。わたしは、「違うのです。こういう本が日本で絶対に必要になります」といって頼んだのですけれど、出版してくれませんでした。 

 結局、「ふたば書房」さんがこの本を出して下さいました。全国で、わたしが、講演会をしてまわり、今までに7000部売り歩いています。この本は本屋さんにはあまり売っていませんが、「グループホームのバイブル」です。詳しくは、著書紹介をHPでご覧下さい。 


「グループホーム入門」と新著「グループホームの基礎知識」 


 また、グループホームについて詳しくは拙著をお目通しください。 

 拙著「グループホーム入門」には、京都にある「グループホームはつね」や、「グループホームぬくもりの里」、「やどりぎ」の、訪問記なども書いてあります。さらに、この4月には「グループホームの基礎知識」(リヨン社)を出版しました。 

別にこのホームページは本の宣伝のために書いているのではありませんが、それでもグループホームのすべてをこのホームページで説明するのは無理ですので、失礼をお許しください。 

 

 

最後に 

 困っている痴呆症のお年寄りは、自分では「グループホームが欲しい」とはいえません 

 グループホームが良いと分かってながらも、もう10年経っても増えていない。 

 痴呆性高齢者1000人に1ヵ所くらいグループホームがあっても意味がないのです。ほとんどの人は、利用できないわけですから。 

 私は、人生を賭けて、「小学校区にひとつ」。 

 子供とお年寄りが歩いて暮らせる、歩いていける距離に、 

 「痴呆症のお年寄りのグループホーム」あるいは 

 「痴呆ではない虚弱なお年寄りのグループホーム」あるいは 

 「障害のあるこどもたちのグループホーム」を普及させたい。 

 そういうグループホームが、夜空に輝く星のようにたくさん地域に出来てくる。 

 弱った方々を地域から隔離するのではなく地域で支えていく社会をつくっていく。 

 わたしはその運動が、グループホームの運動だと思います。 

 このホームページをご覧になったみなさんと共に力を合わせ、よいグループホームを日本じゅうに増やし、ぼけても、身体が不自由になっても、住み慣れた地域で暮らせる社会を創りたいと思います。 

 

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山井和則 yamanoi@wao.or.jp

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