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その2
世界で初めての痴呆性高齢者向けグループホームと言われる、スウェーデンの「バルツァゴーデン」という非常に有名なグループホームの話をしたいと思います。 これが、バルブロ・ベック・フリス先生です。 バルブロ先生は、1980年頃から、疑問に思われ、考えた。
これがその世界一有名なグループホーム「バルツァゴーデン」です。
私は1989年、スウェーデンで高齢者福祉の研究のために、留学していました。 「スウェーデンの痴呆対策はどうなっているのか?」。 そう思っていたときに、スウェーデンの知人の研究者アネリー・ホローさんが、 「ミスター山井、今スウェーデンでは、"グループホーム"が爆発的なブームになっている。大きな病院ではなくて、家庭的な雰囲気の中で生活(グループホーム)していくと、痴呆の病気は治らないけれども、症状が和らいだり、あるいは進行が遅くなったりする」 と教えてくれました。 そして、アネリーさんから「バルツァゴーデンの家」という史上初の痴呆性高齢者向けグループホームの本を借りて読みました。その本では、スウェーデン初のグループホーム「バルツァゴーデン」での3年間のルポで、痴呆性高齢者にとってグループホームがいかに効果的かが実証されていました。 感動した私は、バルブロー博士に手紙を書き、「この本を是非、翻訳して日本で出版させてほしい」とお願いし、快諾して頂きました。そして、実習とルポのため、私は早速バルツァゴーデンに行き、1週間滞在致しました。 それまでに、私は、日本の老人病院の痴呆病棟で、実習し、寝間着姿の痴呆症のお年寄りと、1日に20周も30周も、廊下を手をつないで徘徊をした経験がありました。
このシグバートじいさんは93歳。シグバートじいさんが病院から移り、グループホームで生活していると、誰かが料理をしていると、キッチンをのぞき込むのです。 グループホームの痴呆ケアにおいては、環境が非常に大切です。具体的に言えば、朝からコーヒーをわかす。スープをつくる。ジャガイモをゆでる。スウェーデンでは、ジャガイモが主食なのです。 そういう家庭のにおいをグループホームの中に充満させる。そのことが脳にとって良い刺激になるわけです。 キッチンからいいにおいがすると、シルバート爺さんがのぞき込んでくる。 それでバルブロ先生は、「もしかしたらシルバート爺さんは、簡単な料理なら作る能力が、残っているのでは?」と考えました。
つまり、脳が覚えていなくても、指先はジャガイモの手触りを、ナイフの手触りで、ひとりでに勝手に手が動き、皮をむくことができるのです。
スウェーデンでも以前は、老人ホームや病院の大きなフロアで、20人も30人も一緒になって、スタッフが忙しそうに走りまわり、食事介助をし、がやがや落ち着かない雰囲気で食事をしていた。ところが、そういう雰囲気では、食欲がわかない、ということがわかりました。
家庭的な、長年住み慣れたような雰囲気で、スタッフもユニフォームではなく、私服で、一緒に食事をする。 「ああ、自分は感謝されているのだな、みんなから必要とされているのだな」 と、いうことはわかるのです。
だから、このアニータさんは、 「痴呆ケアにおいて大切なのは、"どうやって入浴介助をするか?""どうやっておむつ交換をするか?"ではない。もっとも大切なのは痴呆症のお年寄りたちは、生き甲斐や、自信を失っている。生き甲斐を失ったお年寄りには、"この方だったらまだこんな能力が残っているのじゃないか?"と、能力を引き出して、役割を・出番をつくり、スッタッフ達が、"ありがとう、たすかったわ"ほめるのです」と。
「そんな環境のなかで、痴呆症のお年寄りは、"失敗ばっかりして迷惑をかけている" "邪魔者扱いされている" と思っていたけれど、"私もみんなから必要とされているのだ"という実感が、なによりも痴呆症状をやわらげるのです」と。
たとえばこのビルギッタさん。 ビルギッタさんが落ち着かなくなったら、自分の部屋につれていって、ピアノの前に座らせて、「ビルギッタさん、一曲引いてください」。 ここで重要なのは、他の入居者やスタッフのひとが一緒になって、ビルギッタさんと一緒に合唱する。そして、一曲終わったときがまた大切で、一曲終わると、ばちばちと拍手して、アンコール・もう一曲。 つまり一日一度でも自分が認められて、まわりから必要とされてほめられる。そういう瞬間があると、痴呆という病気は進みにくくなったり、症状が和らいだりするのです。 一人一人の生きがいに応じた「個別ケア」です。
残念ながら、今までの病院や大きな施設のケアは、10人みんなで、紙風船の風船バレーをする。これは、「身体のリハビリ」としては効果があります。
痴呆症のお年寄りの、ひとりひとりに、「この方はどのような能力が残っているか?」というスタッフが見極めることが大切です。
この方も痴呆症です。マニキュアをつけて、イヤリングをつけて、パーマをあてセットをして、パンタロンスーツです。 「この方は、痴呆症で、ぼけているのだったら、こんなおしゃれをさせなくてもいいじゃないですか」。 思わず、私は、スタッフの方に聞きました。 「そんな考えだから日本人は、だめなのです。何回言ったらわかるの!痴呆症のお年寄りというのは、尊厳や自尊心をきずつけたら、そのショックで痴呆が悪化するのよ。特に女性の方は、身なりをきちんと整えてあげることが、もっとも大切なケアなのよ。寝間着を着せて、散切り頭に散髪したら、そのショックで痴呆が進むのよ。」 と、言われました。 |