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3年目の見直しに向けて |
民主党 「介護保険への
10 の提言」
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質の向上へのインセンティブを! |
2002年7月18日 |
民主党厚生労働NC大臣 山本 孝 「介護保険をより良くするワーキングチーム」座 長 山井和則 事務局長 中村哲治 |
1 提 言 |2 趣旨 |3 介護保険導入2年の問題点と課題
2 趣旨
介護保険がスタートして2年あまりが経過し、来年4月の介護報酬改定に向けての議論や、第二期の介護保険事業計画(平成15年度から5年間)の策定が進められている。 「介護を社会全体で担う」という趣旨のもと、全体的なサービス利用量の増加、サービス利用者の権利性の拡大、サービス選択の自由の拡大など、介護保険の導入の効果も多々ある。 しかし、施設サービス希望者の急増、不十分な在宅サービス、ケアマネージャーの機能不全や利用者の囲い込み、介護現場の労働条件の悪さ、人材不足など、介護保険が十分に機能していないために起こる問題点が明らかになっている。 連合総研の調査(2001年)でも「要介護者に対して憎しみを感じている」介護者の割合は、3人に1人と高く、介護保険以前の調査(平成6年)と変わっていない。つまり、介護家族の負担は、介護保険によってあまり軽減されていない。 また、利用者本人が要介護状態であること、さらに、サービス量の不足もあいまって、競争原理・市場原理が十分に働いていない。そのため、人件費を切り下げ、サービスの質を落として利益をあげる事業者も増えており、介護保険の見直しにおいては、質の向上へのインセンティブを組み入れ、サービスの質の担保、評価、監査をしっかり行い、質の向上のために努力した事業者が報われる制度にすることが重要である。 診療報酬の改定により、今後ますます社会的入院患者が退院を迫られるが、その患者が行き場のない「介護難民」になることが決してないように、在宅・施設サービス、介護付き住宅などの早急な整備が必要である。 また、雇用創出が大きな社会の要請である今日、介護分野は大きな雇用の場として期待されている。しかし、介護職は、重労働の割に給与が低く、また不安定な雇用が多いことから、生活の安定を得ることができる「職」として確立ができていない。良質な介護サービスを提供するためにも、労働環境の整備は急務である。 民主党は、介護保険開始後の2000年7月に「介護保険を良くするワーキングチーム」を設置し、過去2年間、30回以上に及ぶ介護現場等からのヒアリングを継続的に行い、2000年9月26日と2001年5月31日に、提言を発表してきた。 今回提言で取り上げた以外にも多くの改善すべき点があることは承知しているが、介護保険導入後2年の状況や、来年4月の介護報酬改定をにらんで、社会保障審議会介護給付費分科会での議論をふまえ、さらに多角的な視点から主な課題を整理し、論点を絞り込んで「10の提言」を新たにまとめた。 なお、2005年の介護保険制度の制度見直しに向けては、更に次のような根本的な課題について、引き続き議論を行わなければならない。
3 介護保険導入2年の問題点と課題² 施設志向が強く、待機者が急増した(在宅サービスの利用も伸びてはいるが) ² サービスの質の低下が懸念される(採算優先の人件費削減で質の軽視) ² 施設と在宅の自己負担の格差が大きい ² 施設やグループホームが大幅に不足しており、利用者が選べない ² 介護職員の労働条件が悪い(低い報酬、不安定な雇用など) ² ケアマネージャーが十分に機能していない ² 事業者によるサービス水準のバラツキが大きい ² 保険料と利用料について、低所得者対策が不十分であり、世帯考慮による不公平がある ² 必要に迫られて、介護職員による医療行為が行われている ² 介護報酬の改定について帳尻合わせの議論(必要性ではなく、全体として増減なしとする)
介護保険の理念は、「必要な時に、必要なサービスを、利用者が選択して利用できる」ということである。しかし、介護保険施設の現状は、その理念からほど遠いものがある。 特に、特別養護老人ホームは待機期間が長く、待機中に状態が悪化して、入院したり、死亡するケースも少なくない。好みの施設を選ぶどころか、逆に施設が利用者を選ぶ場合すらある。 これでは、国民の介護不安がますます増すばかりであり、介護基盤を早急に整備すべきである。 しかし、従来のような施設を増やすのは21世紀にはふさわしくない。「自宅でない在宅」を推進すべきである。これは、自宅でもない、施設でもない、「第3のすまい」とも言えるもので、「介護付き住宅」と呼べる。具体的には、新型特別養護老人ホーム(全室個室ユニット型)、グループホーム、ケアハウス 、宅老所などがこれにあたる。 スウェーデンでも1990年代に「施設から在宅へ」という流れがあったが、この時も、高齢者を「自宅」で介護し続けたのではなく、個室の老人ホームやグループホーム、介護付き住宅などを大量に整備した。 21世紀の高齢社会において使われる「在宅重視」とは、国際的に見ても、「自宅でない在宅」重視、つまり、介護付き住宅の重視である。 また、地域においてデイ・泊まり・滞在という「小規模多機能な地域密着サービス」を提供して介護を支える宅老所は「居心地がよい」と好評であり、その普及は、老いても住み慣れた地域で暮らせる社会づくりのために重要である。 これらのことから、次のことを提言する。 ・ グループホーム、宅老所、ケアハウス、個室ユニット型の新型特別養護老人ホーム、介護サービスが受けやすい公営住宅などの「居住の場」を整備する。 ・ 今後新築する特別養護老人ホームは、新型特別養護老人ホームに限る。 ・ 既存の施設のユニット化を進める。 ・ グループホームやケアハウスは、「通過施設」ではなく、必要に応じて、ターミナルまで対応できる「ついの住処」となるようにする。 ・ 宅老所の泊り、滞在機能にも介護保険を適用する。 ・ アパートなどに要介護高齢者を集め、まとめて介護を行っているケースがあるが、密室で質の低下を招き、虐待や事故につながりかねないので、有料老人ホームの基準に満たないものでも届け出を義務付け、その実態を公表するべきである。
介護報酬は「1つのサービスについていくらの報酬」という原則であり、必ずしもそのサービスの質は問われない。本来ならば、市場原理や競争原理により、「質の低いサービス」は利用者から排除されるべきであるが、実際には、利用者本人が寝たきりや痴呆性高齢者であり、また施設なども絶対量が圧倒的に不足しており、市場原理に任せるだけでは、質の担保はできない。それどころか、人件費を抑制し、サービスの質を落とすほど、利益があがるということになりかねない。 このような質の低下への歯止めをかけないと、良心的な事業者よりも、人件費を必要以上に抑制して質の低いサービスを提供する事業者が利益を多くあげ、事業を拡大し、質の悪いサービスが拡大するという問題を生みかねない。「悪貨が良貨を駆逐する」状態では人材も育たず、介護保険の存在意義が問われる。 特に、介護保険施設に関しては、慢性的な不足状態であり、利用者が選べる状況には全くなく、少なくとも施設サービスについては、競争原理や市場原理は働かず、それらによる質の担保はされない。つまり、悪いサービスでもその施設は繁盛する。 厚生労働省の介護事業経営概況調査(平成14年発表)では、特別養護老人ホームの利益率が介護保険以前に比べて-5.6%から+13.1%と大幅にアップし増収に転じたが、その反面、人件費率は69%から55%へと大幅ダウンし、人件費を抑制することによって利益をあげている特別養護老人ホームの実態が浮き彫りになった。 施設の経営努力は必要であるが、人件費を削減しての行き過ぎた質の低下には歯止めをかけねばならない。 よって、質の向上のためには、保険者(市町村など)が、介護サービスの質に責任を持たなければならない。このためには、市町村などがNPOと連携して、しっかり質をチェックし、指導する必要がある。質の評価や監査を強化すると共に、質の低いサービスについては、介護報酬の減額や、著しい場合には事業者指定の取り消しを行うべきである。 保険者機能を強化し、介護困難者へのサービスの提供、ケア ・カンファレンス実施体制の構築、第三者機関による苦情対応機関の設置などを行い、自治的な機能の確立を図る必要がある。 以上を踏まえ、次のことを提言する。 ・ 「身体拘束ゼロ作戦」の徹底を行う(やむをえず身体拘束を行う場合は市町村への届出を義務付ける)。 ・ 保険者機能を強化し、市町村がサービスの質に責任を持ち、指導できる法的根拠を明確にする。 ・ サービスの質の評価を行政やNPOなどが頻繁に行い、公表する体制をつくる。 ・ 選択が可能なレベルまでサービスの量を増やす。
介護保険施設の待機者が多く、その7割以上が痴呆性高齢者である。また、大規模な施設の大幅増設は、特に都市部では土地の確保が難しく、ノーマライゼーションの見地からも、グループホームや宅老所などの小規模な居住の場を急速に増やすことが必要である。 特に、グループホームは痴呆ケアの切り札として、期待が大きい。数が足りないだけではなく、利用者負担が特別養護老人ホームの2倍程度以上であること、質にもばらつきがあること、ターミナルまでの対応が難しいこと、など、様々な問題点がある。 また、グループホームでは、「宿直」の名目でも、十分な仮眠時間が取れず、労働基準法上「夜勤」とみなされるケースが多い。 更に、介護事業経営概況調査でも、グループホームの介護職員(介護福祉士を除く)の平均給与は、夜勤手当を含めても月185,000円で、特別養護老人ホーム(同211,000円)よりも安く、この給与で痴呆ケアの専門職を雇いにくい現状である。 「質の高い」グループホームの急速な普及のためには、次の点が重要である。 ・ 十分な夜勤加算をつけて、合法的に夜勤体制が組めるようにする。 ・ 必要な医療の確保する(訪問看護の利用を認めるなど)。 ・ 在宅サービスとして、福祉用具のレンタルを可能にする。 ・ 新型特別養護老人ホームのホテルコストに対する低所得者対策と同様の対策をグループホームにも適用する。
質の高い介護サービスは、質の高い介護職員によってもたらされる。そして、安定して働き続けられる仕事でなければ、質の高い、プロフェッショナルな介護職員は増えない。これは介護保険がうまくゆく鍵である。 にもかかわらず、重労働だが安い給料の実態があり、更に、施設でも在宅でも身分の不安定な多くの非常勤職員、中でも、いわゆる「登録ヘルパー」が増えているが、「登録」という名称であっても、実際には通常の雇用関係である。 登録ヘルパーをはじめとする、短時間労働のホームヘルパーの労働問題については、「行政監察結果報告書」(平成7年)において、既に問題が指摘されていたが、これまで有効な対策が取られてこなかった。 そこで、次のことを提言する。 ・ 「登録ヘルパー」という呼称を廃止して、適正な労務管理により労働条件を安定させる(社会保険適用、移動時間やキャンセルに対する賃金支払いなど)。 ・ 介護を一生の仕事としてプロフェッショナルとして働けるような待遇改善(給与)を行う。 ・ 事業者指定の資格の要件に、労働安全衛生や労働条件などの労働関係条項を組み入れる。
在宅サービスの利用状況は、平均すると支給限度額の約4割である。しかし、要介護5の寝たきりの高齢者は、今の支給限度額では必要十分な介護が受けられず、一人暮らしを続けられない。また、要介護度が低い痴呆性高齢者の場合、十分なデイサービスなどを今の限度額では利用できない。 いずれのケースも、在宅サービスがもう少し多く利用できれば在宅生活を続けることが可能だが、支給限度額に阻まれて、施設に入らざるを得なくなっている。 また、来年4月からの報酬改定により、訪問介護などの介護報酬が上がることが考えられる。この場合に、利用できるサービスの量が減ることを防ぐためにも、支給限度額の引き上げは必須である。 さらに、今の水準を保つだけでなく、在宅と施設の不均衡をなくす意味からも、在宅での利用限度額を引き上げることが必要である。 支給限度額の引き上げに対しては、「介護保険料がアップする」という批判がある。しかし、支給限度額を引き上げによって、施設入居が回避されれば、実際に使われる介護保険財源は少なくなるのだから、この批判は当たらない。 ・ 施設に入った場合に利用できる最高額と同じ額まで、在宅での支給限度額を引き上げる。 ・ 「施設志向」の流れに歯止めをかけ、高齢者の在宅生活を支援するためには、ケアマネージャーとホームヘルプ(家事援助)の介護報酬をアップさせる必要がある。
ケアマネージャーは、「介護保険の要」であり、利用者を総合的に把握して支援することが求められているが、これまでは、低い報酬や過重な業務と相まって、期待される業務を十分に行えているケアマネージャーは少ない。 実際、在宅のケアプランの約半数が、1種類しかサービスが組まれておらず、ケアカンファレンスが行われていないケースも多い。施設希望者が増える一つの原因は、このように適切な在宅サービスの提供が行われていないからである。 ケアマネジメント業務が適正に機能するように次のように改善し、在宅サービスの利用を促進していかねばならない。 ・ 専従のケアマネージャーが30人程度の利用者を担当し、給付管理業務も加味して、独立して開業できる程度に介護報酬を引き上げる。 ・ 必要に応じてケアカンファレンスを開催できる体制づくりを、保険者(市町村)は進めるべきである。
要介護の高齢者は、たんの吸引や辱瘡の処置等、何らかの医療的なケアが必要な場合が多い。また、外用薬の塗布や爪切りなども、自分でできない場合、誰かが行わなければならない。これらは医療行為として、看護婦や家族は行えるが、介護職員が業務として行うことは禁止されている。 一方、これらの行為を、在宅であれば家族が、施設であれば限られた看護職員がすべて行うのは、現実的に無理である。そのため、実際には、非合法で介護職員が医療行為を行っているケースが黙認されていることは周知の事実である(連合総研の調査でも、ホームヘルパーが必要に迫られて医療行為を行っており、また多くの家族が今後も行われることを期待している)。 在宅のALSなどの患者にとっては、たんの吸引などの医療行為が家族の過重な負担となっているにもかかわらず、介護職員には認められていない。このような実態に合わない制度のために在宅生活が困難になっている患者も多い。 民間のシンクタンク「ヘルスケア総合政策研究所」の調査(平成13年)では、「ホームヘルパーや施設の介護職員の約9割が医療行為を行ったことがある」と報告されている。また、行政監察結果報告(平成11年)でも、ホームヘルパーによる医療行為の必要性が指摘されており、「厚生省は、介護等サービス業務の充実及び効率化を図る観点から、身体介護に伴って必要となる行為をできる限り幅広くホームヘルパーがとり扱えるよう、その業務を見直し、具体的に示す必要がある」と指摘されている。 ・ 医師・看護師の包括的な指示を前提として、たんの吸引、点眼、つめ切り、血圧測定、外用薬の塗布などの、自宅であれば同居家族が行うような行為について、新たに一定の看護研修を必要に応じて受けた介護職員には行えるようにする。
「社会で支えあう」という介護保険の理念からすれば、基本的には保険料も利用料もその所得等に応じたものとすることが妥当だが、所得や資産が把握できない現状では、困難である。 保険料徴収の基準で市町村民税が世帯非課税である第二段階や、第一段階で生活保護を受けていない層などでは、保険料が過重な負担となって生活を圧迫している。 根本的には、年金など高齢者の所得保障などとの関わりで総合的に対処すべき部分ではあるが、当面、申請に基づく個別の減免など、次のような対策を、制度見直しの2005年までの時限措置として行うべきである。その際、財政的な裏づけは、その趣旨から、生活保護などの施策に準じて国の責任で行う。 ・ いわゆる「神戸方式」(?@減免の条件を明確に決め、?A申請に基づいて個別に審査を行い、?Bその資産状況や実際の支払い能力等において減免を行う)のように、介護保険制度の中で可能な保険料の減免を、どの保険者(市町村等)でも当然実施するように徹底する。 ・ 貸付制度の創設 ・ 生計困難な人に対する利用者負担の減免(事業者による減免の拡充)
特定非営利活動法人(NPO法人)は、市民のニーズに合致し、新しく多様できめ細かな社会的サービスを供給する主体として、また、市民による自由な社会貢献活動として、その育成を支援する必要がある。昨年、形式的にはNPO法人に対する税制措置が取られたが、現実に使えない制度であるため、民主党は、客観的な基準により、多くのNPO法人が税制支援策を受けることができる制度としてゆくことが必要だと考えている。 介護サービス事業は、広域活動を前提とした現行のNPO税制の枠には入らないが、その地域における活動の有効性は大きく、また社会的にもその活動が理解されやすいことから、NPO税制を変える導入路として、次のことを行うことが必要である。 ・ NPO法人が、社会福祉法人に認められている低所得者に対する利用料減免を実施できるようにし、併せて介護サービス事業に対する課税を社会福祉法人と同等とする。
2002年
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