毎日新聞 政治プレミア 2022/2/17
ーインフルエンザとは違うオミクロンの危険性ー
オミクロン株の特性
非常に感染力が強い新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」がピークアウトしつつある。しかし、ピークアウト後の感染者減少は緩やかになるとみられ、感染者数は高止まりする可能性がある。
オミクロン株は重症化しにくいとされ、国民の間にもその認識は広まっている。確かに若い世代を中心に、感染しても無症状のままだったり、インフルエンザや風邪と同じような症状で軽症のまま回復したりするケースもある。「この程度のものであったら、それほど感染対策をしなくてもいいのではないか」と思う人が増えるのも当然だろう。
しかし、最近、私の身近で3人のコロナ感染の高齢者が相次いで、病床の逼迫(ひっぱく)により入院できず、自宅で亡くなった。後述するように高齢者にとっては命を落としかねない恐ろしい病気であり、この二面性への危機感が岸田政権からは全く感じられない。むしろ「オミクロン株の重症化率は低い可能性が高い」という点を繰り返し発信してきている。
死者数が高止まりする危険性
厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」で示された大阪府のデータによると、オミクロン株中心の第6波での致死率は2月5日時点で0.07%と第5波の5分の1以下。ただ、50代までは0.01%以下と極めて低いが、60代以上となると、0.54%に跳ね上がる。
広島県の1月1~14日の感染者を対象にした調査では、60歳未満はワクチンの接種歴の有無にかかわらず、致死率は0%だが、60歳以上となると、接種歴がある場合は0.55%、ない場合については4.04%という高さだ。
実際、第6波の死者数は全国で増えており、2月15日には死者数が236人と過去最多になった。100人を超えるのは9日連続となる。ちなみに季節性インフルエンザの致死率は、0.02~0.03%(国立感染症研究所)という。
さらにオミクロン株の場合、コロナが重症化しなくても、基礎疾患が悪化して死亡するケースが多い。これまでのコロナは重症化を防ぐのが重要なポイントだったが、オミクロン株は、肺炎など重症化を経ずに、基礎疾患の悪化により、死亡してしまう危険がある。インフルエンザと違い、経口薬が普及しておらず、効果的な治療も難しい。
つまり、オミクロン株感染は比較的若い人たちにとってはインフルエンザや風邪並みかもしれないが、高齢者、特に基礎疾患があったり、ワクチン未接種だったりする場合は、死亡リスクがある非常に恐ろしい病気なのだ。
しかも、患者数の増加で医療体制が逼迫し、救急車を呼んでも、入院できず、自宅死するケースが急増する一方、緊急性を要さない入院や手術が後回しにされ、コロナ以外の患者の死者も増えている。
重症化率や致死率は感染拡大から遅れて高まるため、今後、致死率はさらに上昇する可能性がある。新規感染者数の高止まり傾向が続けば、死者は増え続ける。
楽観的な岸田政権
「オミクロン株はインフルエンザや風邪並み」という認識が広がったままでは、状況は悪化する。3回目のワクチン接種が十分に進まないのも、この楽観論が大きな要因を占めるだろう。
岸田文雄首相は早急に記者会見を開き、「基礎疾患があったり、ワクチンを接種していなかったりする高齢者にとってオミクロン株は非常に危険だ」と訴えかけるべきだ。
首相が危機感を持って訴えれば、国民にも伝わる。特に3回目の接種は高齢者にとって命に関わる問題だ。広島県のデータでは、ワクチン接種の有無で致死率は約7倍にもなってしまう。