2004.9.8
少年院など視察
8月31日から3日間、衆議院青少年委員会(議員14人)で北海道に児童福祉などの視察の予定でしたが、台風のため中止。
しかし、その中止決定が出たのは、私と泉健太議員(京都の民主党の仲間)が千歳空港に着いた直後でした。私と泉議員は、台風で北海道から京都に帰ることができず、北海道に一泊せざるを得なくなりました。
中止になったとは言え、公務で視察に来ているわけですから、2日間も北海道でボーとしているわけにもいきません。2人で個人的に少し視察を行いました。
非常に密度の濃い2日間、青少年問題の現場を回り、深く深く考えさせられました。
○訪問したのは、次の7ヶ所です。
(1)女子少年院
(2)少年院2004
(3)児童養護施設
(4)児童自立支援施設
(5)高校(不登校や中退の生徒を全国から多く受け入れる)
(6)グループホーム(ひきこもりの子どもや若者が立ち直るための施設)
(7)フリースクール(不登校や中退の生徒を受け入れる)
詳しく書くとキリがないので、できるだけ簡単に書きたいと思いますが、1つ1つの施設や学校が、重い重い課題を負いながらも、必死で素晴らしい取り組みをし、子どもや若者の立ち直り、健全な成長のために挑戦していました。
プライバシーに触れない範囲で、視察内容を報告します。
(1)紫明女子少年院
北海道内の家庭裁判所で少年院送致の決定を受けた14歳以上20歳未満の少女の施設です。半年から2年くらい入院します。
授業などを見学して驚きました。
あどけない笑顔の少女が並びます。
泉議員と私が廊下からのぞくと、にこやかな笑顔でこちらを見ます。
思わず、こちらも手を振りたくなるような気分です。
この女子少年院に入る理由は、傷害、窃盗、覚せい剤などの非行です。
順にあげると、放火1%、傷害6%、強盗致死傷10%、恐喝2%、窃盗10%、毒劇物取締法違反5%、覚せい剤42%など。
覚せい剤がトップです。
ここの少女の共通する問題点は次の通りとのことです。
1)自分の行ったことの重大性・問題性がわかっていない。
2)自分のことを価値が低いものととらえている(だから、援助交際をしたり、他人の価値も低く考え、傷害事件を起こしたりする)。
3)能力が開発・訓練されていない
4)自分の気持ちを適切に伝えることが苦手(ついついかっとして手が出る)。
5)家庭の中で孤立している(周囲の人とのコミュニケーションが苦手である)。
彼女たちの姿を見て、こんなあどけない中高生の女の子がなぜ・・・・?と考えさせられました。
聞くところによると、入院者(ここではそう呼ぶそうです)の4割くらいが、児童虐待の被害者でもあったとのこと。自らが虐待された被害者が、非行に走ってしまうという悲しさ。また、逆に、非常に過保護な家庭で育ったケースも。
「家庭が悪い。親が悪い。本人が実は、被害者でもあるんじゃないですか?」と、私が質問すると、担当の職員さんは、
「入院者の親もまた、虐待の被害者であったり、貧困家庭で家庭が
崩壊していたりするケースが多いのです」とのこと。
つまり、「貧困や虐待の連鎖」なのである。
このような貧困や虐待の連鎖、もっと言えば、自分でどうすることもできないのに不幸に巻き込まれてしまう連鎖を絶ち、子どもを不幸から守ることこそが政治の仕事だと私は、思っています。
ある女子生徒は、教官とマンツーマンで生物の指導を受けていました。
泉議員と私が通りかかり、立ち止まると「高校受験のために頑張っていまーーーす!」と、その女子生徒。
めがねをかけてガリ勉に見える彼女がなぜ、ここにいるのか・・・。
覚せい剤で幻覚症状が出る女子のための個室もあります。他の部屋は4人部屋。
非行のきっかけで多いのは、テレクラや出会い系サイト、携帯電話。
そこで、暴力団などの「悪い男」と出会い、そこから覚せい剤などに転落するケースも多いという。
家族からの性的虐待や男性から暴行を受けたことが原因で、非行に走ってしまうケースもあるという。
案内して下さった教官と共に「要は『男が悪い』『悪い男さえいなくなれば、不幸な女子も減る』ということです」と情けなくつぶやいた。
私はいつも施設などを訪問するときには、スーツを脱ぎ、ネクタイもはずすことにしている。スーツとネクタイでは、いかにも「視察」であり、訪問する相手を「人間」ではなく「視察対象」として見下しているように思えるからだ。
だから、今回も私はネクタイをはずして女子少年院を回った。
教官の方がおっしゃいました。
「男性に暴行された女子などは、スーツ姿の男性を見ただけでおびえて震えることもあります。また、援助交際などをしてきた女子の中には、『男性なんかみんな“すけべオヤジ”』としか思っていない女子もいます。彼女たちと援助交際していた相手がみんなスーツ姿の男性だったわけですから・・・」
「女子は援助交際、男子はイレズミまで行くと、なかなか立ち直れない」と教官の方は言います。
携帯電話が子ども達にも普及し、テレクラ、出会いサイトなども普及させたのは、大人の責任。善悪の判断もつきにくい子ども達が危険な情報に接する。そして、そこで「危険な男」にだまされ、転落が始まる。それを放置しているのは大人である。
「女子少年院を退院したあと、ちゃんと立ち直れますか?」と教官の方に尋ねた。
「多くが立ち直りますが、一部はまた非行に走ります。やはり、みんな寂しいんです。その寂しさを受け止めてくれる男性に出会い、その男性が『悪い男性』だとまた転落します。女子の寂しさの隙間につけこむ『悪い男』が多いのです」とのこと。
この女子たちの「寂しさ」を温かく受け止める社会でなければならない。
実際、彼女達の退院後の就職は非常に厳しい。
昔は富山の紡績工場などが雇ってくれて、住み込みで働き、高校や大学まで卒業させてくれるケースが多かったという。しかし、今日ではそのような職場はなく、住み込みの仕事は、美容室やホテル・旅館などと非常に限られる。
ちなみに、この女子少年院の就職希望者の内訳は、工員4%、介護関係7%、店員32%、調理関係4%、ガソリンスタンド11%、未定42%。調査では、退院後の再収容は7%。
男として、大人として、何ともやりきれない思いで、女子少年院を後にしました。
(2) 北海少年院
少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対して、社会不適応の原因を除去し、健全な育成を図ることを目的として矯正教育を行う法務省所管の施設です。16歳までの少年が半年から2年、入院します。
ここでは、一般の授業だけでなく、金属加工や木工などの実習を見学しました。
少年院のある教官は、
「少年院を退院後、家族でも家族以外でも一人でもその子どものことを真剣に、愛し、心配してくれる人と出会うことができれば、その子は立ち直ることができる。しかし、その出会いがなければ、また、転落してしまう」と言う。
イレズミを消すための苦労。覚せい剤の幻覚症状からのがれる苦労。さまざまな話を聞きました。
少年院でも女子少年院でも教官の方々のご苦労と半端じゃない情熱に頭が下がります。
「マンツーマンの対応でないと、立ち直りをサポートできない。一番の悩みは教官の数の少なさ。最近は、犯罪の検挙率をあげることに世間の関心があるが、非行青少年の立ち直りを助け、再犯を防ぐためにも教官の数を増やすことが必要です」という切実な声も聞きました。
(3) 児童養護施設「天使の園」
3歳から18歳までの児童が79名入居。平均在園期間は、5年です。
その入居理由は、家庭の事情や親からの虐待、親の死別、育児放棄、親の病気・精神障害など。個々の話を聞くと、心が痛みます。
詳しくは、離婚13人、虐待23人、養育拒否4人、監護不適当17人、保護者稼動14人、保護者家出・失踪13人、保護者死亡1人、保護者疾病15人、保護者心身障害7人、保護者受刑1人。
最近の特徴は、親からの虐待による入園が急増しています。
改築などを重ねていますが、施設が手狭な印象を受け、職員の方も改築の必要性を訴えておられました。
退園理由は、18歳での就職が多く、一部、親が途中で引き取るケースもありますが、子どもよりも親に原因があるわけで、親が変わらない限り、帰宅は難しいようです。
また、天使の園は、「エンゼルキッズこども家庭支援センター」を併設しています。これまでに359件の相談があり、不登校、虐待、いじめなどの相談を家族や本人から寄せられています。
近隣の小中学校で、この支援センターの電話番号を書いたカードを配布しているため、児童本人からのいじめや虐待被害の相談もあります。
(4)北海道立向陽学院(児童自立支援施設)
昔は教護院と呼ばれていた施設です。私は松下政経塾時代に北海道家庭学校(男子85名)を訪問したことがあり、谷校長先生のお話も何度も聞かせて頂きました。
少年院送致までは行かないまでも、非行により、児童自立支援施設での自立訓練が適当と、家庭裁判所や児童相談所などに判断された児童がここに入ります。
児童福祉法では、「不良行為をなし、またはなすおそれのある児童及び、家庭環境その他の環境上の理由により生活指導などを要する児童を入所させ、自立を支援する」などと規定されています。
この日訪問した向陽学院は、たまたま女子専門の児童自立支援施設で、定員48名。今は39名が入院。主に中学3年生が15名、中学卒業後1~2年が19名です。
入所理由は、前述の女子少年院よりも軽い非行。
入院前の主な問題行動は、外泊69%、家出67%、性的非行54%、不良交友54%、怠学62%、飲酒喫煙56%、万引き59%、持ち出し28%、シンナーや薬物15%、テレクラ23%、家庭内暴力8%。
万引きから悪の道に転落するケースが多いようです。平均在院期間は1年半。
家庭の経済状況は、上3%、中41%、下31%、生活保護23%。必ずしも、貧困家庭が多いとは言えません。
授業では、介護やパソコン実習などが行われていました。一般の授業もあります。
卒業式には、元通っていた中学の担任の先生も来て、行うとのことです。
女子寮の壁紙に貼られた女の子の自己紹介などを見ると、「短気でキレやすい性格を直したい」などと書かれています。
ここでも、「いじめや虐待を受けたことが原因になり、非行に走った女子が多い」と聞き、非常に複雑な気分になりました。
(5) 北星余市学園高等学校
ここはマスコミでも有名で、全国から生徒を受け入れており、約400人の生徒の7割が不登校など中途退学を経験した生徒です。
6割が北海道以外から来ており、8割が近所の小規模な寮で生活をしています。
「やりなおそうよ、君らしさのままで」という合言葉で、全国から生徒が集まってきています。佐々木校長先生の話を聞き、教員の方の話も聞きました。
生徒は茶髪あり。ツッパリあり。元暴走族のリーダーあり。自由な服装。ごく一部、学習障害のある生徒もいます。
北海道の大自然の中で学校生活をやり直すことができる貴重な素晴らしい学校です。
教員の方は、
「地域では『不登校は自分だけ。自分は異常な存在』と自分を卑下している生徒が多い。しかし、この学校に来て、似たような立場の友達が一杯いることを知り、みんな自分らしく生きることを取り戻すのです」とおっしゃいました。
暴力、たばこ、非行、一方では、無気力、などの課題を抱えた生徒の指導に体当たりで取り組む教師の方々の姿は輝いて見えました。
授業も参観しました。
多くの生徒が中退や不登校を経験し「やりなおす」ために全国から集まっています。服装もバラバラですが、自由な雰囲気の中にもきめ細かい押さえるところは押さえた緊張感のある授業でした。
私自身も一時は教員を目指し、教育実習もしたことがあるので、多くの不登校や中退経験のある生徒をひきつける授業には感動を覚え、教師の方々の必死な姿勢には、頭が下がりました。
残念ながら2割は退学していますが、逆に言えば、8割の生徒はしっかり立ち直り、卒業します。
不登校や中途退学が大きな社会問題になる今日、このような学校が増える必要があると痛感しました。
(6) グループホーム「ビバハウス」
ここは北星余市高校の元教師によって、北星余市高校卒業後も一人暮らしをできないある生徒の「居場所」として開所されました。
ここでは今、ひきこもりであった若者が10人生活しています。不登校ののち、10年間ひきこもっていた若者にも会いました。
自然の中で、いきいき働き、暮らす姿を見て感動しました。
スタッフの方は、
「この北海道の大自然に囲まれた環境が、若者を立ち直らせる力の7割です」
と、自然の中のグループホームの意義を話されました。
しかし、私にはグループホームを主宰するご夫妻の人生を賭けた取り組みと、若者達への愛情が何よりも素晴らしいと感じました。
私も国会で「ひきこもり問題議員連盟」に入っていますが、ひきこもりの若者は全国に100万人以上と言われており、家庭内暴力や家庭崩壊を招くものもあります。
日本に特に多い問題で「親のしつけが悪い」「本人が怠け者」という問題では決してなく、社会全体が解決に取り組まねばならない問題です。
ひきこもりの若者の多くは、人間不信に陥っています。ひきこもり対策において、ひきこもりの若者の居場所であるグループホームが1つの切り札と言われています。その現場を見ることができました。
グループホームに来て「ひきこもりで苦しんでいるのは自分だけではない」と知ることで、立ち直るきっかけになる面もあります。しかし、全国的にもひきこもりの若者のためのグループホームはほとんどありません。
グループホームの主宰者の方は、「ひきこもり問題は社会の問題。政治が取り組んでほしい。この問題を放置すれば、結局は若者の失業問題になる。個人や家庭だけの問題ではない」とおっしゃっていました。
(7) 「フリースクール自由が丘学園」(札幌市)
中学、高校、約30人ずつが通っています。6割が一般の学校で不登校の生徒です。いじめ、仲間はずれ、虐待などを経験した生徒も多いのです。
今日では、不登校の生徒は10万人を超えたと言われています。そして、その原因も必ずしも不登校の児童にあるのでなく、一人一人に応じた指導ができない今日の画一的な教育の問題とも言われています。
このフリースクールに来る生徒の多くが、以前中学校などで、いじめを経験したりしています。さらに、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)の症状があり、一般の中学になじめなかった生徒もいます。
1クラス十人前後の少人数。音楽の授業、英語の授業などを見学しました。
落ち着かない生徒、無気力な生徒、さまざまな生徒がいるとのことですが、一人一人が自分のペースでなじめるようにしているとのことです。
中学を不登校になり、このフリースクールに通うことにより、中学を卒業できる生徒もいます。その意味では、このフリースクールは、単なる塾ではなく、しっかりと公的な役割を果たしています。しかし、公的な助成はほとんどありません。
不登校問題が深刻化する今日、このようなフリースクールが増える必要があります。
この秋、10月か11月に発達障害者支援法案を厚生労働委員会で審議して成立させることになりますが、学習障害、注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群、自閉症などの生徒の最適な教育の保障も大きな課題となります。
この2日間の視察では、どこの施設や学校も急な訪問にもかかわらず歓待してくださいました。 それぞれの現場の教官や教師・職員の方々の頑張りに感動しました。また、必死に立ち直ろうとする子どもや若者本人の頑張りにも感動しました。同時に社会の病根の深さを感じました。 「この2日間、いい勉強をした。勉強になった」では済まされません。改めて青少年問題の解決に取り組む責任の重さを泉健太議員と痛感しました。 確かに、児童虐待、少年犯罪、不登校、ひきこもりなどは、今まで国会議員の関心の低いテーマでした。しかし、これからは国会議員も真剣に取り組まねばなりません。票を持たない子ども達・若者たちの声、悲鳴こそ代弁せねばなりません。 この秋の児童福祉法の改正や発達障害者支援法の審議の場などでも、今回の現場の声を国会に届けたいと思います。
私が政治に関心を持った1つの原点は、20年以上前、私が大学時代に、ボランティアで母子寮という児童福祉施設で活動していたことです。
その施設で家庭崩壊に苦しむ子どもたちの涙との出会いが、当時、工学部の学生だった私を大きく突き動かしました。
あれから20年以上が経ちました。
しかし、子ども達が置かれている状況はますます深刻化し、児童虐待、不登校、いじめ、ひきこもりは増える一方。さらに、テレクラ、携帯電話、出会い系サイトなどによる児童の被害、援助交際、シンナー・覚せい剤中毒も増える一方です。
子どもが生きにくい社会。こんな世の中に誰がした! と叫びたくなります。
しかし、私もそれを傍観しているだけでは加害者の一人です。この現状を変えることこそが私の仕事です。
子どもが生きやすい社会、もっと言えば、障害があったり、行動が鈍く、集団行動になじみにくい子どもの幸せに、いきいきと社会の真ん中で暮らせる社会。児童虐待がなくなる社会、また、運悪く虐待を受けた子どもが立ち直ることができる社会。そのような社会にするために頑張りたい、と改めて感じました。