最近、ホームヘルパーさんに同行してまわった、在宅のお年寄りのことを書きたいと思います。
19日に訪問したフメさん(90歳)は一人暮らし。要介護1。昨年骨折により半年入院。
「話し相手がいないから、こうちゃんとしろちゃんといつも話してるの」と、黒と白のネコのぬいぐるみを抱くフメさん。
週2回のデイサービス、週2回の2時間ずつのホームヘルプを利用している。
足腰が弱り、トイレに自力で行くのがやっと。買い物には行けない。手の指も昨年骨折し、その後遺症もあり、料理は自分では無理。ときどき近所のお店からお寿司やうどんを注文することもある。
ホームヘルパーさんは、週2回の2時間ずつの訪問介護で、フメさんの注文を聞いて、まずは買い物。今日は3日分の料理をつくる。
「ひかりものの魚を食べるとジンマシンが出る」とフメさん。
その後、ヘルパーさんは買い物から戻ってきて、栄養満点の美味しそうなクリームシチューや野菜の煮物を手早くつくる。ご飯も炊く。同時に洗濯。
3日分をつくって、冷凍しておく。この料理を三日かけてフメさんは食べる。食べるときには電子レンジで暖める。しかし、一人で食べるのであまり食欲は湧かないという。
家族は近所に住んでいるが、息子さんが病弱であり、奥さんが看病していることもあり、フメさんの介護まではなかなか手がまわらない。フメさんもあまり息子さん夫婦には面倒をかけたくないと思っている。
生活援助2時間で介護報酬は約4600円。それで9食分をつくる。1食あたり500円くらいの調理費か? もちろん、調理以外にも買い物、洗濯、掃除ほか、あらゆる身の回りの世話をする。
実は、今週の国会での勉強会で私はショックを受けた。というのは、「介護保険でホームヘルパーさんがお年寄りに食事をつくるのは、高くついて、贅沢だ。ホームヘルパーは食事作りは辞めて、配食サービスにすればよい」という意見を何人かの方から聞いたからだ。
そこで、早速、今日、ヘルパーさんの食事づくりに同行したわけだ。
「ホームヘルパーさんの調理はコストが高い。配食サービスでよい」という意見があるが、と、ヘルパーさんに聞いてみた。
「配食サービスのお弁当は飽きる。食べないお年寄りが多い。ときどきなら仕方ないが、一人暮らしのお年寄りは死ぬまでずっと配食のお弁当しか食べられない、というのはかわいそう。一人暮らしのお年寄りにとって、一番大切なことは食事をしっかり食べてもらうこと。栄養が一番重要。そのためには、毎日、配食のお弁当ではよくない。好きなものの注文を聞いて、それに合わせた食事をつくるからお年寄りも食べてくれる」とのこと。
また、「だからオムツ交換などの身体介護のほうが、生活援助よりも簡単。特に、生活援助の調理は、お年寄りの味の好みがあるから難しい」とのこと。
お年寄りの好物をヘルパーさんがつくるのは贅沢と考えるか否か?賛否両論分かれるところだ。
さらに、ヘルパーさんの仕事は、冷蔵庫の中を見て、腐ったものがないかをチェックしたり、食事をちゃんと食べているかのチェックもある。
10年ほど前、私は2年間、スウェーデンに住み、連日、ホームヘルパーさんと同行して、お年寄りの家を日夜訪問していた。
スウェーデン人は国民性からして、食事にあまり価値を置かない。だから、朝も昼も晩もサンドイッチということもある。それに簡単なスープや冷凍食品のミートボールやポテトがつくくらい。このため、スウェーデンのヘルパーさんは調理にあまり時間をかけない。
私はイギリスでも3ヶ月、老人ホームや在宅で実習したことがあるし、デンマークやドイツ、アメリカでも調査をしたことがある。
しかし、日本のお年寄りの食事への愛着は非常に強い。日本のお年寄りのヘルパーさんへの要望のトップが調理であり、これについては、「贅沢だ。ムダだ」などと賛否両論がある。
今回の介護保険改正で、このフメさんのような要介護1の人は、今までの訪問介護でなく、「予防訪問介護」を受けることになるという。
「予防訪問介護」では、ヘルパーさんはフメさんと一緒に調理をすることになるという。しかし、指も痛めているフメさんは、一緒に料理することはほとんどできない。
今日もじっと見ていたが、3日分の料理を手早く作るために、ヘルパーさんは大忙しである。その姿をフメさんが見つめ、話しをしていた。
フメさんにできる範囲で調理を手伝ってもらうことは可能である。しかし、そうすればヘルパーさんは、調理のスピードを大幅にダウンさせねばならないので、ホームヘルプの時間はさらに長くなるであろう。
さらに、一緒に調理したからと言って、90歳のフメさんが将来的に一人で調理ができるまでに回復することはほぼ不可能である。
フメさんは、介護保険が改正になれば、どうなるだろうか? 要介護1だから、おそらく介護予防(新予防給付)になるだろう。しかし、ヘルパーさんは、「フメさんに、筋トレマシンの筋トレなんか無理よ」と笑う。
電子レンジの下の棚を掃除。お皿の上に黒い点々が・・・。そう、ごきぶりの糞がいっぱいついている。フメさんは自分で掃除ができないので、衛生的な暮らしをするためにはヘルパーさんが欠かせない。
介護保険が改正されたら、ヘルパーの調理はなくなり、配食サービスが増えるのか? もちろん、多少はうどんなどの出前や「ほかほか弁当」の出前などもいいかもしれない。時には、配食のお弁当もよいと思う。しかし、その出前の方々はお年寄りの生活を支えてくれるわけではない。栄養は大丈夫か? 健康は大丈夫だろうか?
「デイサービスやヘルパーさんが来てくださるとき以外は、一人ですねん。でも、私、話し好きでしょ。寂しいときは、ネコのぬいぐるみと話すんです。私が死んだら、こうちゃんとしろちゃんも棺おけに入れてもらって、一緒に天国に行くことになってるんです」と、フメさん。
ヘルパー任せにせず、もっと近所の家族が面倒をみればよいという意見もあるだろう。また、ヘルパーが調理までするのは贅沢だという意見もあるだろう。しかし、私には今のホームヘルパーさんは、フメさんにとっての在宅で暮らす「命綱」のように思えた。
美味しそうなクリームシチューができた。美味しそうに食べるフメさん。別れ際にヘルパーさんは、私にこう言った。
「『ホームヘルパーは食事をつくらずに、毎日、お年寄りは配食のお弁当でよい』と主張する国会議員には、一回、配食のお弁当食べてもらったらええんちゃう? 何日連続で耐えられるか。飽きるよ」
先週の委員会質問で私は、尾辻厚生労働大臣に「ホームヘルパーさんと同行して、お年寄りの家に行ってほしい。そこで、家事援助の現場を見て、お年寄りや家族、ヘルパーさん、ケアマネさんの話も聞いてほしい」と要望した。
尾辻大臣も西副大臣も「現場を見に行きます」と約束してくださった。その報告を次の委員会質疑の際に、聞くことになっているので楽しみだ。大臣、副大臣とも素晴らしい報告をしてくださるに違いない。
福祉にはお金がかかる。介護保険の保険料がアップする中、サービス切り下げもある程度はやむをえない。しかし、切ってよい部分と切ってはならない部分がある。
政治家が現場をしっかり知って議論したうえでの結論なら仕方ない。しかし、現場のことをあまり知らない政治家が、また自分で家事もほとんどやったことない政治家が、安易に「家事くらい家族がしろ」「筋トレで身体を直して、家事くらいお年寄りがやれ」と国会で決めるのはおかしいのではないか?
ありがとう、山井さん、現場に行っていただいて。この食事についてスウェーデンでヘルパーと同行し、配食サービスを見たいという私に「日本では食事はどうしているの」と聞かれ「ほとんどがヘルパーが作ることが多い」と答えると複数のヘルパーが顔を見合わせ「日本の高齢者は幸せだ」と言ったことを思い出しました。へえ、いいことなのか、週2回ヘルパーが作っても限られるから、毎日配食される方がいいのでは、とその時は思いましたが。
Posted by: 坂田 和子 at 2005年03月30日 01:57現在、介護保健制度の見直し法案が国会に提出されています。提案されている内容は、軽度で介護を必要としている方への介護サービスの切り捨て、施設入所者へのホテルコストの導入など、給付の抑制と国民負担が柱となっています。
介護保健制度の見直しにあたってはこうした抑制や負担の増加ではなく、憲法25条にもとづいた高齢者・障害者の福祉の改善・拡充の視点からの改革が求められているのではないでしょうか。
現場をまわられての高齢者の生の声などを伝えていただき、今回の改悪になるような「見直し」に反対し、国民が安心して老後をおくれるものにしていくためにぜひ御力添えをお願いいたします。
新日本婦人の会京都府本部会長末松弘子
訪問介護で改正で2時間の作業は出来なくなったのですか、1時間半しかできないといっていいるが、それでは、料理が作られない。2時間半でないと黒こげのものを作る。
買い物を入れると3時間必要で、それを1時間半刻みにすると、結局1回で済むことを2回行うことになり、総合時間が長くなる