朝から昼過ぎまで、栃木県小山市の幼児殺人事件の現地調査に行っていました。
その後、いま、地元立命館大学での講義のために新幹線で戻っていますが、
なんと小山市から立命館大学まで6時間もかかります。
移動は、大変ですが、それでも現地で現場の声を聞くことが非常に重要です。
さて、小山市での調査について報告します。
短時間ですので、甚だ不十分かとは思いますが、栃木警察署、児童相談所でのヒヤリングの報告をします。
今回の調査では、「なぜ、二人は殺されたのか?」「未然になぜ防げなかったのか?」「どうすれば再発を防止できるのか?」などについて非常に考えさせられました。
民主党の小宮山洋子、水島広子、石毛えいこ、小林千代美、泉健太、山岡賢次の各衆議院議員と私が参加しました。
また、水島広子事務所の敏腕政策秘書の鳥居由美子さんも参加されました。
事件のおおまかな内容は次の通り。
7月8日
コンビニ店長が、顔面にケガをした児童二人と会い、驚いて、警察に通報。
全身にも虐待とみられるアザが多かった。警察署員と児童相談所職員が対応。
祖母は身元引き受けを拒否。児童相談所に二人を一時保護。
7月9日
実父が「どうしても子どもを返してほしい」と強く言うので、
下山(以下、犯人と書く)と同居しないことを条件に、
二人の児童を実父に返す。
7月11日
再び、道路ぞいを走り回っている児童二人を警察が「迷子」で保護。
虐待のことを聞いたが、「虐待は受けていない」と児童は答え、
身体のアザも少なくなっていた。実父の家に帰す。
このことを警察は児童相談所に報告。
8月
二度ほど児童相談所が祖母に電話をし、二人の児童の安否確認。
「再び子ども達が犯人から殴られたこともあったが、強く叱ったら、
その後はなくなった。実父(祖母の息子)も引越し先を探している」
などとの返事を祖母から児童相談所の職員が得た。
9月11日
児童二人が行方不明に。その後、川で発見。
詳しく書けば長くなるので、簡単には以上のようです。
そこで、「何が悪かったのか?」。考えられる点をすべて下記に列挙します。
(1)そもそも最初の一時保護のあと、子ども二人を自宅に帰した際の条件は、
「犯人との同居はやめる」ということであった。にもかかわらず、
再び同居していたのに、対策を講じなかった。
(2)最初の虐待の通報があった際に、児童相談所の職員が自宅を訪問し、
犯人とも面談し、状況を危険さをしっかり把握しておくべきであった。
そうしていれば、もっと危機感を持って対応できたはずだ。
(3)このような虐待に対応する児童福祉司が、栃木県の児童相談所では
27人であり、国の基準(29)を下回っていた。
(4)警察は最初の虐待発見の際に、犯人に事情聴取をしなかった。
被害者が幼児である場合、本人から被害届けは出ないのだから、
傷害事件として犯人に事情聴取すべきではなかったか。
実際、犯人は以前にも覚せい剤取締法違反、産業廃棄物処理法違反の
前科があった。児童相談所より、警察は強い力を持つのだから。
(5)せめて、児童相談所の職員がこの自宅の近所まで聞き取り調査に
行っていれば、「あの家からよく大人の怒鳴り声が聞こえている」
などという実態が把握できたはずである。
(6)児童相談所は、今回のケースを「養護」ケースという少し緊急度が
軽いケースと認識しており、緊急度が高い「虐待」ケースとしては
認識していなかった(現地調査が不十分)。
(7)児童相談所は、児童虐待だけでなく、少年非行、障害児への対応、
育児相談など幅広く行っており、虐待だけに多くに職員や時間を割けない。
虐待を担当する児童福祉司をもっと増やす必要がある。
(8)また、児童福祉司も県庁の職員であり、4年交代。教育学を履修したり、
教員免許を持っていて、児童福祉司の資格がある人であるが、
難しい児童虐待のケースなどは、最悪のケースなどを直感する
動物的なカンのようなものも必要であり、4年ではなく、もっと
ベテランも数多く必要ではないか。
つまり、児童福祉司の質と量の根本的な問題がある。
(9)児童相談所の児童福祉司の仕事を激務であり、下手をすれば、
なり手がいなくなるかもしれない。
(10)さらに、今は公務員を減らす流れがあるので、その中で児童相談所の
職員だけ大幅に増やすのは難しい。
(11)児童相談所にある一時保護施設も、かなり満員に近い状態で、
長期間、児童を預かるのは難しい。
さらに、その先の行き先である児童養護施設もほぼ満員である。
つまり、児童相談所だけの問題でなく、その後方支援の施設も不足している。
(12)犯人の2人の子どもも今、児童相談所に一時保護されているが、
非常にショックを受けており、今後のケアが必要である。
(13)以下、もう少し根本的な問題になるが、一時保護施設や
児童養護施設が不足し、虐待を受けた子どもの安住の場が
不足している。
(14)量だけでなく、児童養護施設は古かったり、雑居部屋であったり、
必ずしも居心地は良くないものも多い。
もっと家庭的なグループホームが必要だが、日本にはほとんどない。
(15)また、児童養護施設に子どもが入ったとしても、問題の虐待をした
親へのケアが不十分なので、のちほど、親元に帰れるケースが少なく、
児童養護施設に高校卒業まで住み続けるケースが多い。
(16)欧米では、児童養護施設でなく、虐待を受けた子どもは里親が
引き取るケースが多い。家庭的な雰囲気があるからである。
しかし、日本ではまだ里親は少ない。
栃木県でも虐待ケースなどに対応できる専門里親は8人に過ぎない。
また、「子どもが里親に盗られる」と言って、虐待した親が子どもを
専門里親に預けることに同意しないケースも多い。
以上、今回の小山市のケースの再発防止のみならず、児童虐待防止のための根本的な問題も書かせて頂きました。
虐待を受けた子どもは、「助けて!」と警察に逃げ込むことはできないのですから、しっかり子どもを守るシステムが必要です。
おまけに、いま議論されている三位一体改革の中で子育て支援や児童虐待防止の予算が、国からの補助金でなく、一般財源化されようとしています。
調査の移動途中に二人が投げ込まれた「思川(おもいがわ)」も見ましたが、激しい流れでした。この川に投げ込まれた、のかと思うと、胸が締め付けられる思いでした。
今日の小山市は、大雨でした。同僚議員は、「涙雨だ」と言っていました。
児童虐待による殺人の再発防止のためには、抜本的に児童虐待防止の予算を手厚くする必要があると痛感しました。
アザだらけの顔で、「誰にたたかれたの?」と近所の人から尋ねられても、ただ下を向いて答えなかった、という子ども達の姿を思い浮かべるにつけ、子どもの小さな命を守ることは、社会いや、大人の責任であると強く感じました。
お二人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
Posted at 2004年10月05日 18:33 | TrackBack