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    やまのい和則の
      「痴呆ケアの切り札・グループホーム!」

      - Yamanoi Kazunori Mail Magazine -

             第17号(2000/10/01)

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 久しぶりに私のグループホームについての見解をまとめました。

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 日本でグループホームを増やすために!
    その魅力と現状と課題

 私と痴呆性高齢者向けグループホームとの出会いは、1989年
に初めてスウェーデンでグループホームを訪問した時のこと。

それ以来、「グループホームこそが痴呆ケアの切り札だ」
「グループホームが日本にも必要だ」と痛感し、日本でグループ
ホームを普及させるための研究・運動に取り組んできた。

本の執筆や講演だけでなく、ホームページやメールマガジンを作
成し、おまけに、グループホームを普及させるために、この6月
からは衆議院議員にもなり、8月の衆議院厚生委員会での初質問
でも単独型グループホームへの建設補助などを要望した。

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 このレポートでは、「なぜ、グループホームが必要なのか」
「なぜ、グループホームが日本で増えないのか」
「どうすれば日本でグループホームが増えるのか」などについて
述べたい。

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グループホームの魅力

 つい先ほども、カナダ在住の日本人からメールが来た。彼女は
私のグループホームのホームページやメールマガジンの読者であ
るようだ。

 「東京に住む実母が痴ほう症で、特別養護老人ホームから徘徊
して脱けだし、大騒動になった。警察のお世話になり、施設から
は、『うちでは面倒みれないので、退所してほしい』と迫られて
いる。しかし、退所しても行き場所がない。東京でよいグループ
ホームを紹介して欲しい。早急に返事が欲しい」という内容のメ
ールである。

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 私のところには、このような「グループホームに入居したい(さ
せたい)」というご家族からの問い合わせや、「グループホーム
を開設したい」「施設を辞めて、グループホームで働くのが夢」
などという相談が連日殺到している。

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 では、グループホームの魅力とは何であろう。先日、老人保健
施設の隣に新築されたグループホームを訪問した。

 老人保健施設で四人部屋に住んでいた時には、無気力であった
痴呆症のおばあさんが、道を1つ隔てて向かいに新築されたグル
ープホームに引っ越した。

老人保健施設にいた時には、部屋の中のゴミ箱に排泄する癖があ
った。しかし、グループホームでは部屋の向かいにトイレがある
ため、グループホームに入居した当日にトイレの場所を教えたら、
すぐにそのおばあさんは理解し、自分でトイレに行くようになり、
二度とゴミ箱で排泄することがなくなった。言葉数が増え、目つ
きがかわった。

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 介護スタッフは言う。「老人保健施設にいた時には、声かけを
しても私の目を見てくれなかった。しかし、グループホームに移
ってからは、声をかけると、私の目を見てくれるようになった。
視点が定まるようになったんです。入居して2週間後には、『庭
の花に水をやりたい』と自分から言い出すほど生きる意欲が湧い
てきました。グループホームがよいとは聞いていましたが、ここ
までガラッと変わったのには驚きました」と。

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 しかし、このグループホームにも悩みがある。老人保健施設は
入居費が月8万円だったが、グループホームは月16万円と二倍
の自己負担。この理由は、グループホームが在宅サービスである
ため、家賃も食費も全額自己負担になるからだ。入居費が高いた
め、このグループホームはまだ8人の定員が満員になっていない。

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 グループホームの現状と課題

 グループホームでは、いっしょに簡単な調理やそうじをしたり、
痴呆症のお年寄りの持てる能力を引き出す生活リハビリを、少人
数の家庭的な環境で、また、個室の居室を保障して行うことによ
って、痴呆症状がやわらいだり、症状の悪化が遅くなったりする
のだ
 しかし、グループホームはまだ全国に600ヶ所程度しかなく
5000人くらいしか入居できない。痴呆性高齢者が160万人と推
計されている(厚生省)から、300人に一人しか利用できない。

 痴呆性高齢者向けグループホームは、介護保険の正式なメニュ
ーであり、要介護1以上の痴呆性高齢者が利用できるが、現状で
は、「絵に描いた餅」に過ぎない。

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 では、このように「痴呆ケアの切り札」と期待されるグループ
ホームがなぜ増えないのか。1つには、グループホームの世間で
の認知度、知名度が低いことがあげられる。しかし、それ以上に
大きいのは次の3つの理由だ。

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1、介護報酬が低すぎる

 グループホームは、介護保険のサービスの中で最も採算がとれ
ないサービスと言われている。
実際、全国の自治体調査でも、「介護保険の中で最も足りないサ
ービス」のトップがグループホームである。

 その最大の理由は、介護報酬が低すぎるからだ。
そして、介護報酬が低い理由は、「介護報酬を高くすると、安易
に金儲け主義の営利企業などがグループホームを設立し、質の低
いグループホームが増える危険性がある」という危惧らしい。
その結果、グループホームの介護報酬は「あえて低く、採算がと
れにくい」ように設定されている。「介護報酬が低ければ、金儲
け主義の営利企業も参入しないだろう」という思惑だろう。

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 しかし、この考えはおかしい。なぜなら、介護報酬が低すぎる
ため、良心的な法人も採算がとれないという理由で、グループホ
ームに二を足を踏ませている。
実際、私の知る限りでも、グループホームの予想よりはるかに低
い介護報酬が発表されて、グループホームの設立をあきらめた良
心的な法人がいくつもある。

 さらに、介護報酬が低すぎるため、十分なケアができず、質の
低いグループホームが現在増えてしまった。一方、金儲け主義の
質の悪いグループホームも増えている。

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 要介護3で月25万3000円の介護報酬は、1日8時間預かるデ
イサービスよりも安い。

実際、夜勤が絶対に必要なのに、宿直しか厚生省は想定していな
い。早急に30万円に引き上げるべきである。このままの低い介
護報酬では、十分なケアが行えず、近い将来グループホームで事
故などが起こることを私は危惧している。

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2、単独型グループホームに建設補助がでなかった。
 
 介護報酬の次の壁が建設補助だ。今年度まで、グループホーム
の建設補助は、老人ホームやデイサービスセンターとの併設型に
しかでなかった。グループホームの良さは、住み慣れた地域の小
さな土地に容易に建設することができることである。

しかし、建設補助が併設型に限られていたため、単独型が増えに
くかった。 

 この点について、来年度から単独型グループホームにも建設補
助を出すことを厚生省は概算要求に盛り込んでいる。しかし、こ
の建設補助は、医療法人や社会福祉法人のみを対象とし、NPO
や営利企業は除外されている。私のところには、グループホーム
を計画しているNPOや営利企業から、抗議や問い合わせが殺到
している。

 厚生省としては、NPOは不安定なものも多いし、営利企業も
ピンからキリまであるので、対象から除外したいのであろう。
しかし、自由競争を原則とする介護保険市場において、社会福祉
法人と医療法人にのみ建設補助を出すのは、不公平極まりない。

 確かに、一部のNPOや営利企業は不適切かもしれない。
それなら、すべてのNPOや営利企業ではなく、市町村にチェッ
クさせ、「市町村が認めるNPOや営利企業」に限って、建設補助
を出せばよい。

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 3、入居費が介護保険施設の倍

 私の知るグループホームでも、入居者が集らず倒産の危機に瀕
しているところがある。冒頭に紹介したグループホームも質はよ
いが、「多くの家族が、入居費を理由に入居を断られました」(グ
ループホームの職員)という現状だ。

 特別養護老人ホームや、老人保健施設の入居費は、平均月6−
8万円なのに、グループホームは、10−16万円と倍近い。
同じような症状の、痴呆性高齢者が利用するのに、特別養護老人
ホームよりも、グループホームの入居費が倍も高いのはおかしい。

このままでは、グループホームは介護保険施設よりも、比較的裕
福な高齢者が住むという、住み分けになってしまう。

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 「グループホームは在宅サービスだから、食費や家賃も全額自
己負担だから高くなる」というのが説明のようだが、これは、「グ
ループホームは個室で、介護保険施設よりも居住環境が良いから
自己負担が高くても仕方ない」という考え方だろうか。

 しかし、痴呆性高齢者は四人部屋では混乱し、症状が悪化しや
すく、良質なケアを提供するには居室を個室にすることは必要な
のだ。これは「贅沢」と考えるべきではない。

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 要介護3の介護報酬のおおまかな額は、グループホームが25
万、特別養護老人ホームが33万、老人保健施設が36万。こう見
ると、グループホームの介護報酬が低い分だけ、自己負担が他よ
りも高くなっているのがわかる。

 グループホームの介護報酬を大幅にアップするか、グループホ
ームを施設サービスと位置付けて、食費や家賃をある程度、介護
報酬でカバーすることによって、グループホームの自己負担を介
護保険施設並みにそろえることが必要だ。

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 「ゴールドプラン21」では、2004年度までに3,200ヶ所(1ヶ
所平均8人とすれば、24,000人入居)を目標としているが、これ
は、厚生省との目標というよりは、市町村の目標の積み上げであ
り、160万人と推定される痴呆性高齢者にとっては64人に一人
しか利用できず、少なすぎる。

実際、厚生省の山崎史郎老人福祉計画課長も、「厚生省としては、
グループホームは将来的には中学校区に1つぐらい、1万ヶ所く
らい必要と思っているが、市町村にもっと増やせとは言えない」
(京都新聞一面、2000年9月12日)と発言している。

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 私は、2004年度までに全国に10,000ヶ所(中学校区に1つ)、
2010年度までに25,000ヶ所(小学校区に1か所、20万人分)に
目標を上方修正する必要がある。
 これは、不可能な数字ではなく、上に述べた3つの改善策を早
急に実現させれば達成できる。

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グループホームの質の確保へ3つの提言

 ただ、最後に強調せねばならないことがある。それは、グルー
プホームはただ増やせばよいというものでなく、質の確保が大事
だということだ。
 そのために3つ提言したい。

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1、グループホーム開設相談窓口の設置。

 私の事務所にも連日、グループホーム開設の相談が舞い込むが、
多くの事業者が、「市町村の担当者にグループホームの開設につ
いて相談しても、『自分はグループホームを見たことがない』と
いう始末。話にならない」と嘆いている。

厚生省はどこかの団体に委託してグループホーム開設相談窓口を
つくるべきだ。そうすることで、質の悪いグループホームの設立
を未然に防ぎ、良質なグループホームを増やすことができる。

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2、市町村の監督責任の強化。
 
 現状では、多くの市町村は、「グループホームは都道府県が勝
手に認可したので、市町村にはあまり責任はない」と言い、新設
したグループホームに市町村の担当者が訪問したこともないとい
うケースも多い。市町村の積極的な指導や監督なしには、グルー
プホームの質の確保は難しい。

 グループホームの開設に市町村の許可も必要とし、それとセッ
トでグループホームの質のチェックに市町村に大きな責任を負わ
すべきだ。都道府県だけでは、1つ1つのグループホームの質に
責任を持たせるのは無理だ。

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3、痴呆ケアスタッフの育成

 さらに、グループホームを増やすには、痴呆ケアスタッフを育
成せねばならない。痴呆疾患センターが、宮城、東京、大阪に設
置されたが、そこでは、痴呆ケアの指導者の養成が行われ、痴呆
ケアスタッフの養成そのものではない。

 だから、痴呆ケアスタッフの養成学校や養成コースをすべての
都道府県に設置すべきである。同時に、すでにグループホームで
働いているケアスタッフの研修も充実する必要があるが、今の低
い介護報酬では、十分な研修は無理である。

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 結論を言うならば、私の意見は、介護報酬などをアップし設立
しやすくすると同時に、質のチェックも厳しくし、良質のグルー
プホームを急速に増やすという考えだ。
                やまのい和則 拝