民間精神病院 訪問記 2日目


今日は精神病院訪問日記2日目です。

25日水曜日、衆議院厚生委員会で医療法改正に関する精神病院についての質疑のために、今日も、阪大博士課程で精神医療を、研究する竹端君と一緒に、3つの民間精神病院を訪問しました。(昨日、滞在したのは公立の精神病院でした)

-----1:6-----

 さて、朝9時に訪問した精神病院は、昭和30年代にスタートして、今では、看護婦対患者は、1:3という非常に良心的な、病院です(基準は1:6です)。1:3は人手が多いのです。

-----看護婦さんがいない-----

 今、精神病院の医師や、看護婦の人員基準を、あげるべきということが、医療法の改正に伴って議論されているが、この病院の院長さんは、「都市部はまだしも、田舎の精神病院には、看護婦が近隣にそもそもいない。看護婦の基準を増やすと、少なからぬ精神病院はつぶれる」という。この病院でも九州などに看護婦の
募集に行ってもなかなか見つからないという。

「精神病院には偏見がある」
「人生すべてにかかわるので、やりがいのある仕事なんですけれどねえ」と院長さん。

-----差別-----

 看護婦さんも実際に勤めるまでは、精神障害者に「こわい」という印象を持っている人が多いという。しかし、実際に接してみると、「やさしい」「愛すべき人」と認識が変わるという。

「会って話してもらえればわかるんですけどねえ。精神医療への差別と偏見を取り除く必要があります」と院長さん。 

 すべての病棟を見せてもらう。痴呆性高齢者の病棟もある。
「『痴呆病棟に移されたら辞めます』という看護婦もいてねえ」と院長さんは嘆く。その理由は、「痴呆病棟はオムツ交換や下の世話が多い。看護婦がそんなことできるか」の意識があるという。

-----黙認-----

 「精神病院の医師や看護婦の人員基準が高くなっても、この病院はすでに多くの人手がいるので達成しているので全く困らないが、今の1:6の看護婦さんも満たしていないところなどは、つぶれてしまうのではないか」と院長さん。

今の精神病院の基準の医師数や看護婦数を満たしていない病院が、一部あり、それでも保険停止にならず、事実上黙認されているという現状だ。何かおかしな世界だと思う。

-----誇りをもち働きたい-----

 「精神病院は一般病院に比べて少ない人手で安上がりでまあええやろ」という安易な気持ちが行政にもあったはず、と院長さんは指摘する。

 「精神病院には地域の偏見がある。ここも『お山の上の病院』と呼ばれていた。私たちも隠れ隠れ仕事をしていたような感じ。

みんなが誇りを持って働けるようになりたい」と院長さん。


-----飛び込み-----

 あまり長く書くと終わらないので、次の病院に移る。飛び込みで訪問させてほしいと電話する。オーケーの返事をもらったが、あとで聞くと、「衆議院議員が訪問する」というので、院長さんが会議をキャンセルして下さったとのこと。申し訳ない。

 院長さんは、「精神科は一般科と違って治療も少ないので診療報酬が少ない」と嘆く。

「ここは町の中でいいですね」と言うと、「実は昔は竹林の中だった。あとで近隣に家が建った。だから苦情はないが、あとで精神病院を建てるのなら周囲は反対運動をしただろう」とのこと。

-----デイケアが-----

 病棟とともにデイケアも見せてもらう。毎日デイケアをやっている。そのおかげで退院できた人もいるという。退院してからの患者を、家族が受け入れるのが大変である。その点、月から土まで日中はデイケアが対応してくれたら、家族も受
け入れやすいという。

ちょうどカラオケの時間で5人が集って「今はもう秋、誰もいない海・・・」とトアエモアの曲を女性の患者さんが歌っていた。

 患者さんの中には毎日、デイケアのスタッフとの会話を楽しみにしている人もいて、仲のいいスタッフが休みの日は、がくんと症状が悪化する人もいるという。

「精神病の患者さんは一般の人以上に純粋で傷つきやすいのです」

-----ビジョン-----

 ここの院長さんは、「医師や看護婦の数を増やせばいいというものでない。リハビリのスタッフやケースワーカーなどトータルで考えるべき」という。

また、「厚生省は精神病院のベッドを減らしたいならはっきり言うべき。厚生省の精神病院に対する将来ビジョンが見えない」と。


-----退院促進の施設が近くに-----

 次の病院は、精神病院だけでなく、退院を促進するため、多くのサービスを提供している。

病院の前には、道路をはさんで精神障害者が働く印刷所、喫茶店、パン屋さんがある。

また、徒歩1分のところに福祉ホームB型と言って、20人くらいの退院患者さんが住む住居がある。家賃は5万円でスタッフが常駐。看護婦寮を改装したものだ。
また、日中いろんな相談に乗るための生活支援ホームもある。

さらに、感激したのは5人が住むグループホームが10件も病院の近所にある。一軒家を借り上げたものやアパートを新築したグループホームもある。

しかし、近所から反対があり、グループホームの建設も難航したという。案内してくださったスタッフの方は、「頭を地域の方に下げてばかりいたのでこの通り頭がはげてしまいました」と笑う。

-----苦情-----

 近隣からの苦情が頭が痛いという。
「お宅の病院の患者さんはすぐ見分けがつくように同じ色の服を着せてください」と言われたこともあるという。

ここは開放病棟なので入院患者さんも外出をするし、また、グループホームや福祉ホームもこのあたりにあり住んでいる。

 本当は退院可能な人は沢山居る。
グループホームがなかなか増やせないという。病院の横ならいいが、離れた地域だと必ず近隣から反対が出るという。

-----なぜ,病院に?-----

 あるときカナダから研究者が来て、
「あなたの病院は薬漬けでないので素晴らしい。でも、なぜこの人たちが入院しているのかが私にはわからない」と言われたという。確かに、欧米では退院できるはずの人が日本では入院している。平均入院日数は欧米の数倍だ。


-----なぜだろう?-----

 私は考え込んだ。なぜ、日本は先進国で唯一、精神障害者を精神病院に隔離収容する施策をとり、地域に住めないのだろうか。

 「臭いものにはふたをする」という日本人の国民性か。なぜだろう。あるいは、精神病院をそもそも作りすぎたのか。

-----受け皿を整備-----

 院長さんは言う。「退院を促進するにはグループホームや福祉ホームなどの受け皿がいる。しかし、その報酬が低いので、なかなか退院をさせようというインセンティブが一般の病院には働かない。この病院も儲からないけれど社会復帰を進めている。厚生省も本気で病院のベッドを減らし社会復帰をさせたいなら、受け皿整備にもっとお金を投入すべきだ」と。

-----個室を-----

 ある病棟のスタッフは、「雑居部屋なのでトラブルが絶えない。
個室がいい」という。しかし、ある精神病院では個室は差額ベッドで一日3000円。つまり、1ヶ月いたら15万円プラスである。

「個室は権利であり、療養に必要な条件だと思うのだが」


-----安田病院の場合-----

 その後、最終の新幹線を待つ駅で、人権センターの方に会った。
精神病患者への虐待で問題になり、閉鎖になった安田病院事件などに取り組んでおられた方で、情報公開の大切さを聞く。

安田病院事件の記事を頂き読む。劣悪な精神病院であった安田病院が、大阪府の監査に手心を加えてもらうため、国会議員に100万円政治献金をしていたという。その政治家は「病院と仲良くすれば、票になると思った」とコメントしている。

よりよい精神医療へとリードすべき、国会議員が、逆に劣悪な病院を、放置する片棒をかついでいる。


-----感じた事-----

 長くなるが、ここ4日間、4ヶ所の精神病院をまわって感じたことを整理したい。

  1. 人手が少ない、雑居部屋で居住環境は悪い。
  2. 病院は入院患者を抱えていたほうが採算が成り立つ。退院させるインセンティブが働いていない。
  3. グループホームやケア付き住宅、福祉ホームなどが不足。これが、地域の偏見や無理解、反対と相まって、社会復帰を拒んでいる。
  4. 以上のような事情で、日本は先進国でダントツに精神病院の数も多く、入院日数も長い。それを解決するビジョンがない!
  5. 一部に劣悪な精神病院は存在し、多くの関係者はそのことに危機感を感じている。

    -----解決策は?-----

 安直であるが、解決策は、

  • 医師や看護婦の人手を増やし、
  • 診療報酬をアップさせ、
  • 居住環境を良くして、個室を増やし、
  • そして、早期退院を進め、
  • 地域にグループホームやケア付き住居の受け皿を整備し、
  • 訪問看護やデイケア、作業所、外来などのバックアップ体制もしっかりさせ、
    地域の偏見もできるだけとりのぞく。
  • 医科大学や看護学校での精神科教育にも力を入れ、多くの精神科医や精神医療に関心のある看護婦を増やす。
  • また悪い精神病院をなくすために、病院ごとの情報公開を徹底する。 

    -----欧米ではすでに-----

 しかし、こう列挙してみると、この解決策は、欧米がやっているやり方ではないか。急性期に多くの医師や看護婦がかかわり、もっといい居住環境で対応して、早期に退院させ、あとは地域で暮らしてもらう。そのほうが結果的には、今のように長期入院を増やすよりも医療費も高くはつかないはずだ。
なぜ、このことが日本でできないのか。過去40年。そして、今もそのようなビジョンが見出せないのはなぜなのか。私たち議員の責任かもしれない。

-----権利-----

 ある院長さんは言った。「らい病やハンセン氏病の患者さん、そして、エイズの被害者も裁判をしたりして厚生省に謝罪を求めた。でも、本当なら10年、20年精神病院での生活を余儀なくされた患者さんは厚生省に謝罪を求める権利があるはずだ」と。
 私もその通りだと思った。 

-----紙一重-----

 今日も多くの方から現場の声を聞いた。そのスタッフの方々の顔も何だか、「この方も精神病ではないか」というように見えた。
一日じゅう、精神病院を訪問してまわり、何百人という精神障害者の方に出会い、ふとトイレの鏡で自分の顔を見ると、疲れた顔で、「俺も過労で精神病になるかな」と感じた。

 あるスタッフの方は「住宅ローンを抱えて、家族を養っていて、中年でリストラにあったら、そら、精神病になりますよ。ならんほうがおかしい。精神病の患者さんも私たちも紙一重ですよ。
20年もこの病院に勤めて私が勤める前から入院してる人もいる。
10年入院してる人なんかざらだ。他の病気なら治って退院ということも多いのに、なぜ、こんなに必死に頑張っても精神病は治せないのか、と残念でたまらず、歯がゆく思うのです」と。

-----協力するよ-----

 ある院長さんは言った。「ややこしい問題やから、国会議員なんか誰も精神医療に関心もってくれへん。山井さん、頑張ってや。協力するし。わしもこのままの精神医療の現状でええとは決して思てへん。辞めさせたほうがええ、ええ加減な病院もあるわ」

 「今回は第一回の質問ですが、これからも現場の声をしっかり聞いて、国会に届けます。精神医療の現場の方々が誇りを持って働けるようにしたいです」

 今日も長いメールマガジンになってしまった。
これから、厚生委員会での質問を考えます。この4日間、初めて精神病院という未知の世界に入ってみて、少し自分の人生が広がったような気がした。
           やまのい和則 


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