◎山井委員
よろしくお願いします。民主党の山井和則です。
先ほどの公明党の福島議員の、読売新聞の高木俊介医師の「論点」の質問に対しても、その答弁も聞いておりましたが、やはりこういう批判に対して十分な責任を果たしていないと思います。福島議員も納得しておられないようでした。与党の議員でさえ納得し切れない。
また、気のせいかもしれませんが、私、坂口大臣と今までからずっと厚生労働委員会で審議をさせてもらっておりますが、きょうは、委員会で大臣の顔を見ていると、審議が進むにつれて顔が曇っていく。恐らく心の中で、これは確かにちょっと危ないな、この法案通して大丈夫かなというふうな心の動きが出てきているんじゃないかなというふうに思います。
そこで、きょうは十ページの資料を用意させていただきました。ぜひとも、この法案に賛成しておられる特に与党の議員の皆さん、この資料を見ながら、一緒にこの法案について考えていきたいと思っております。
本日は、局長さんや部長さんには答弁をお願いしておりませんで、森山大臣と坂口大臣にお願いしたいと思います。特に坂口大臣が多いと思いますので、五十分間、どうかよろしくお願いいたします。
きょうの質問に際して、私、過去八時間の審議の、傍聴もさせてもらいましたし、改めてビデオを見ました。そのとき答弁を聞いてわからなくても、後で議事録を読むと、ああ、こういうことだったのかというのが理解できることが多いんですけれども、今回の答弁は、多くの場合において、議事録を読んでもさっぱりわからないという点が多いんですね。
やはり、そういうわからない法案をわからないまま賛成しろというのはそもそもむちゃなことでありまして、きょうも議論になっておりますように、そもそも、どのような人が再犯のおそれ、同じ対象行為を行うというふうに判定されて、また、その判定は可能なのか、また、入院は何年ぐらいになるのか、また、具体的な、重大な他害行為とはどのようなものなのか、そういうふうな基本的なところがまだまだわからないわけであります。
まず冒頭にお伺いしたいんですが、きょうの午前中の答弁で森山大臣、坂口大臣から、措置入院のときの判定と今回の判定は基本的には変わらない、そういう答弁があったかと思うんですが、それでしたら、今回も、同じ対象行為を起こすという文言ではなくて、他害のおそれというふうに文言を修正したらいいんではないかと思います。この点について、森山大臣、いかがでしょうか。
○森山国務大臣
精神保健福祉法による措置入院の制度は精神障害者一般を対象としておりまして、この法律の制度の対象者につきましても、これまでこの法律による一般の精神医療の対象としてきたところでございます。しかし、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられ、措置入院制度とは異なって、裁判官と医師が共同して入院治療の要否や退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられますことから、このような者に対する新たな処遇制度の整備が必要不可欠なものと考えまして、今回、この法律案を提出させていただいたのでございます。
なお、先ほども申し上げましたように、自傷他害のおそれの判断と再び対象行為を行うおそれの判断は、その判断の過程や方法等も同じでございまして、基本的な違いはないと考えますが、ただ、今述べたような新たな仕組み等を整備することが必要であると考えられることから、この制度を創設することにしたものでございます。
◎山井委員
今の答弁は制度創設の趣旨を述べておられるのであって、私が聞いたのは、同じ判定基準だったら、再び対象行為を行うという文言ではなくて、他害のおそれがあるという措置入院と同じ文言でいいのではないかということなんですが、いかがですか。これは一番本質的なところだと思います。
○森山国務大臣
基本的な部分に違いはないというふうに申し上げました。
ただし、自傷他害のおそれの判断における他害行為とは、殺人、放火等の重大な他害行為のみならず、窃盗等の比較的軽微なものも含むとされておりますことから、自傷他害のおそれは、再び対象行為を行うおそれに比べまして、より広範な行為を引き起こすおそれがある場合も認められるのではないかというふうに思います。
◎山井委員
そうしたら、先ほど答弁された、ほとんど対象は一緒だというような答弁とまた違ってくるわけですね。
同じ質問をしたいと思います。
この再び対象行為を行うという文言を他害のおそれということに変えていいんじゃないですか。坂口大臣はどう思われますか。
○坂口国務大臣
考え方の基本的な点は同じだということを先ほど申し上げたわけでありますが、しかし、今回のこの法律の対象は、重大な犯罪を犯したいわゆる心神喪失または耗弱の人ということでありまして、対象が全く違うわけでありますから、そこを理解していただかないとこれはいけないというふうに思います。
◎山井委員
対象が違ったら要件が違ってくるわけではないですよね。別に、そういう重大な他害行為を起こした方でも、今度の法案に係る条件は他害のおそれとすればいいわけであって、もう一度説明していただけますか。対象が違うからということは理由にならないと思うんですね。
○森山国務大臣
先ほど申し上げましたように、他害というのはいわば広いわけでございまして、対象行為を行うおそれというのはさらに絞った内容でございます。
◎山井委員
そうしたら、先ほどの答弁と違うんですね。同じような考え方だと言っておきながら、今は、もっと狭いというふうに答弁が変わったわけですね。
○森山国務大臣
対象が多少違いますけれども、そのためのプロセスは同じだということを申したわけでございます。
◎山井委員
まさに、これは後の質問にかかわってくる非常に重要なことなんですけれども、やはり対象が違うわけですよね、この再び対象行為を行うということと他害のおそれと。違うんであれば、措置入院で自傷他害を予測しているから今回の法案でも予測できるということにはならないということを確認しておきたいと思います。
次に、森山大臣にお伺いしますが、昨年の池田小学校事件の容疑者は、先ほどの五島議員の質問にもありましたが、池田小学校事件の以前に、お茶に睡眠薬を入れて三日間ぐらいの傷害事件を起こして起訴猶予になったということを聞いておりますが、この事件については今回の法案の対象となるんでしょうか。
○森山国務大臣
今回の法案の内容につきましては、具体的には昨年の一月ごろから、特に法務省と厚生労働省で何らかの措置を新しく考えなければいけないということで協議が始まっていたわけでございまして、事件はたまたま六月に起こりました。そしてそれを一つのきっかけといたしまして、いろいろな社会の階層の皆さんから、またはマスコミももちろんですけれども、何らかの工夫が必要ではないかという声が上がってまいりまして、確かにこの事件がきっかけとなってこの法案の立案が促進されたという面はございますが、直接的に関係はございません。
そして、仮にこの法案、法律が成立していたといたしましても、池田小学校事件の被告の場合には直接の該当はならないんではないかというふうに思います。
◎山井委員
質問をしましたのは池田小学校事件ではなくて、その前の、容疑者がそれ以前に起こされた、お茶に睡眠薬を入れて三日間の傷害ということで起訴猶予に以前なっておられるんですね、そのことについてお伺いしたので、答弁お願いします。そういうのが重大な他害行為というふうに入るのか。また、心神喪失、耗弱状態であったのか。
○森山国務大臣
もしその当時この法案が施行されていたとすればというお話でございます。仮定のことについて答弁申し上げるのは必ずしも適当ではないと思いますが、なお、検察官は、本法案第三十三条第三項の本文によりますと、刑法第二百四条傷害罪に規定する行為を行った対象者については、傷害が軽い場合であっても、当該行為の内容、当該対象者による過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の現在の病状、性格及び生活環境を考慮して、その必要があると認めるときには対象者の処遇決定を求める手続の申し立てをするのであって、傷害の結果のみを考慮してその判断をするものではないというふうに言っております。
◎山井委員
今の答弁を聞きまして、重大な他害行為とは何か、重大というのはどんな行為かということなんですけれども、睡眠薬を入れて三日間の傷害を負わせた、そういうことでもこの法案に含まれる、そういう意味では非常に広いわけですね。そういう意味では、心神喪失あるいは耗弱状態じゃなかったら、そのような傷害だったら、それこそ起訴猶予になっていたようなことであっても、今回の法案の対象になれば、後で質問しますが、二年とか五年の入院になるかもしれないということもあり得るんだと思います。
それで、今森山大臣は、今回の法案の対象には池田小学校事件の容疑者は直接は該当しませんということを明確におっしゃいました。
一つお伺いしたいんですけれども、今回のこの法案は、小泉首相の池田小学校事件に対するコメント、法改正が必要なら行わねばならぬということが一つのきっかけになったわけなんですけれども、小泉首相はこの法案が池田小学校の容疑者には直接該当しないということは当然もう御存じなんですか。
といいますのは、小泉首相が池田小学校事件のような犯罪の再発を防止することが必要だという趣旨で発言をされたと思っていますので。にもかかわらず、出てきた法案が池田小学校の容疑者には直接該当しませんということは、恐らく小泉首相からしたら、えっ、そんなはずはないんじゃないかと言われるんじゃないかと思うんですね。多くの国民も、恐らく今回の法案は池田小学校事件の容疑者を対象とするような法案じゃないかと思っていると思うんですが、いかがですか。
○森山国務大臣
小泉首相の発言あるいは本法律案に対する政府等の説明は、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であるという趣旨を述べられたものでありまして、池田小学校の事件が精神障害に起因して行われたものということを前提として述べられたものではございませんので、精神障害者に対する差別とか偏見とか、そのようなことを助長したということはないというふうに思います。
念のため申し上げますと、この法律案によりまして、国の責任において、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備することでございまして、長期的にはむしろ精神障害者に対する差別とか偏見の解消につながっていくものであるというふうに思います。
◎山井委員
それでは、一つお願いなんですが、ぜひとも今の、直接、池田小学校はこの法案の対象には該当しないということを小泉首相に伝えていただきたいと思うんです。そしてまた、私、次も質問したいと思いますので、その感想というか小泉首相のコメントを次の機会にでもお聞きしたいと思うんですが、森山大臣、非常に根本的な、基本的なことなので、よろしいでしょうか。
○森山国務大臣
総理は、私が申し上げるまでもなく十分御存じだと思います。しかし、先生からそのような御発言があったということはお伝えいたしましょう。
◎山井委員
それでは、次の質問に移らせていただきます。
坂口大臣、私、この法案で最もわからないことの一つが、一度指定入院医療機関に入院すると大体どれぐらいの入院になるんだろう。やはり、それによって、一年ぐらいなのか十年ぐらいなのか、あるいは一生なのかによって、大分イメージが違ってくると思うんです。
厚労省さんによりますと、この法案の対象者は年間三、四百人ということで、もちろん個人差はあろうと思うんですけれども、大体平均は何年あるいは何カ月ぐらいの入院ということを想定されておられますか、坂口大臣。
○坂口国務大臣
これはなかなか予測することは難しいというふうに思いますが、本制度におきましては、対象者に継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び重大な他害行為を行うおそれがあると認められる場合に限り、こういうことになっておりまして、本制度の医療を継続することとしております。このようなおそれの有無というのは、それぞれの対象者の病状でありますとかその状況によりまして大きく違うわけでありますから、今の段階でこれがどのぐらいになるのかということを予測することはなかなか難しい。
ただ、現在厚生労働省の調査としてありますのは、平成十二年度におきまして、いわゆる検察官通報による重大犯罪ケースで措置入院となった患者は半年間で約五〇%が措置解除となっている、この数字はあるわけでございます。
◎山井委員
非常に重要な指標なんですけれども、そうしたら、坂口大臣としたら半年とかそのあたりを想定しておられるのかなというふうに理解しました。
ついては、諸外国の例をちょっと見てみたんですが、この資料を見てもらえますでしょうか。これは厚労省さんからいただいた資料です。
まず、ドイツのシュトラウビンク司法精神科病棟、平均二年二カ月、ハール精神病院のこの法案の対象者とされるような方々は約四年、ハイナ司法精神病院は四年。イギリス、高度保安病院は八・二年、デニス・ヒル・ユニットは十三・八カ月。カナダのフィリップ・ピネル研究所は三百五十日、ほぼ一年。アメリカ・コロラド州における心神喪失者の調査、これはほぼ四年ぐらいなんですね。
坂口大臣、改めてになりますが、これと比較をしまして日本というのはどのあたりになりそうですか。イメージでもちろん結構なんですが。
○坂口国務大臣
私もドイツの、そのベルリン州にあります病院を見せていただきましたときにそこでもお聞きしましたけれども、五年ということを言っておみえになりました。そのときに、非常に長いなという率直な感想を持ったわけでございます。
これは制度のあり方等にもよるというふうに思いますから、これは違いは生じるだろうというふうに思いますけれども、日本の場合には、入院と、そしてその入院が必要でなくなりましたときには、いわゆる地域に戻してと申しますか、地域で観察を行うということになっておりますから、入院とそして地域に戻っての問題、これを両方合わせてどれだけかということになると、これはやはり長くなる可能性はあるというふうに思いますけれども、入院期間でどれだけかということを今言われましても、これからこれを行うわけでありますから、この法律を通していただくことができればこれからこれはスタートするわけでありますから、今の段階で何年とか何カ月ということを私が今ここで申し上げることはできません。
◎山井委員
そこが不安なんですが、最初の答弁では、半年ぐらいの事例が刑法に基づく措置入院の解除であるという話で、ところが、実際、坂口大臣が見に行かれたドイツでは五年ぐらいであるということなんですね。
それで、そのことに関して見ていきたいんですけれども、この資料の中に、まさにそのドイツの資料があります。朝日新聞二〇〇一年十一月一日、「独に見る触法精神障害者の処遇」「長期化する施設収容」。ここで書かれている治療処分施設では、十年以上になる患者が一割、症状が重く一生外に出られないかもしれない人が三、四人、平均入院期間は約六年、九〇年ごろは四、五年だったが長期化している、これは全国に共通する傾向だと。それで、この記事の一番最後、左下に書いてありますのは、「モアバッハ判事はこの五年間で、別の裁判官が言い渡した最初の治療処分自体が不適切だったとして、六、七人の退院を認めた。判断はそれほど微妙だという」ということなんですね。平均六年も入院させておきながら、法の判断が非常に危ういということが書いてあります。
それともう一つ、イギリスの例、次の3、これはイギリスのインディペンデント紙という有力な新聞であります。「回復しても出口のない高度保安病院」。それで、退院ができない理由として、七行目ぐらいに書いてあります。現在、治療に成功し、病院から移動する準備ができたとその人々は信じている。二つのことが彼らの釈放への道を遮っている。一つは、彼らの事例の審査に参加する知識のある専門家が不足していること。もう一つは、最も適切な扱いを受けられるような、地域でのケアが不足していること。
次のページの真ん中ぐらいですね。全国的スキャンダルの裏にある事実、数値は以下のとおりである、高度保安病院の中で四百人以上の患者が中度保安病院のベッドへの移動を待っていると。つまり、受け皿がないわけで、退院ができないということになっているわけです。
坂口大臣も御存じのように、残念ながら、イギリスやドイツに比べて日本の地域精神医療、受け皿というのはおくれていると言われております。そういう中で、外国でも、数年ということになって、受け皿がないから退院できないと。それで、後でも触れますが、きょうの資料の一番最後の新聞記事に、「「社会的入院」なお十万人」、受け皿がなくて退院ができないということが書いてあります。
つまり、日本はイギリスやドイツよりも地域の精神医療や受け皿が不足している。これは逆に言えば、日本よりも充実しているイギリスやドイツでも、治療がある程度終わっても退院できない人がふえて、長期入院化してこの司法精神病院で問題になっているということなんですね。こういう懸念について、坂口大臣はいかが思われますか。日本でも同様の問題が起こるんではないでしょうか。
〔森委員長退席、佐藤(剛)委員長代理着席〕
○坂口国務大臣
地域における問題は、今回の法律でも取り上げられているところでございまして、地域における受け皿づくりというものを進めていかなければならないというふうにしているところでございます。今までのこの日本の精神医療におきましては、その点が非常に弱かったということは御指摘のとおりだというふうに思っております。
一般の精神病の皆さん方全般につきまして、これはこれから見直していかなければならないというふうにも思っておりますけれども、今回のこの法律は、その中で重大な犯罪を犯した人ということに限定をされてくるわけでございます。
この人たちに対します問題といたしましては、これは、入院をしておみえになる皆さん方が、いつかは必ず退院をされるわけでありますから、退院をされましたときに、やはり地域でそれがきちんと受けられるような体制というものは整備をしていくということで、今法務省と十分協議をさせていただいているところでございます。
◎山井委員
しかし、一般の社会的入院の人ですら十万人もまだ退院ができない。そして、今回の指定医療機関からの退院に関しては、恐らく、あの人はもともと重大な犯罪を起こして指定入院医療機関から退院してこられたんだというような偏見があるやもしれません。そうしたら、一般の十万人の社会的入院の人以上に退院しにくいと考えるのが普通だと思うんですね。
そういう意味では、その問題を、地域の医療の充実というものをある意味では放置しておきながら今回のような法案を出すということに関しては私は説得力がないと。きっちりと一般、一般と言ったらなんですけれども、社会的入院の人が帰れる土壌があって、やはり今回の法案の対象となるような方々も安心して退院ができる、地域との連携ができているということになるんではないでしょうか。
もう一つ、具体的に私この法案のイメージをつくるためにお伺いしたいのが、大体ベッド数はどれぐらいこの指定入院医療機関でつくられる御予定ですか。年間の対象は三、四百人ということなんですけれども、このベッド数のイメージがあれば、大体何年ぐらいの入院かということもイメージがわくんですが、いかがでしょうか、坂口大臣。
○坂口国務大臣 本制度において必要とする指定入院医療機関や病床の数につきましては、現時点で的確なことを申し上げることは困難でございますけれども、必要な入院による医療が確実に実施されるように、本法の施行後の状況を見まして、そして、指定医療機関の計画的な整備を図ってまいりたいというふうに思っております。
殺人でありますとか放火等の重大な他害行為を行いまして、検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち、精神障害のため心神喪失もしくは心神耗弱を認めた者、それから、第一審の裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、それから、心神耗弱を理由として刑を減軽された者、その数が平成八年から十二年までの五年間で約二千人でございます。通院患者の再入院も想定されることなどから、一年間の入院対象者数は最大で四百人程度ではないかというふうに思っております。これは四百に決めたわけでも何でもありませんが、最大でそのぐらいではないかというふうに思っています。
このうち、一年間でどれだけ退院されるかということにもかかわってくるわけでございますが、今までのように半数が退院されるということになりますと、本法の施行後約十年後に全国で約八百から九百床程度必要になってくるというふうに思っております。八百ないし九百程度のベッド数を用意しておけば、これで十分ではないかと現時点では考えております。
◎山井委員
八百から九百ということでありますが、それが一つの目安になります。
八百から九百ということは、もちろんこれは対象の三、四百人が確実にその対象になるかは全くわからないんですけれども、三、四百だったら一年で回転するということですし、八、九百だったら、もしかして二、三年ということを想定されているのかなということをそこから考えさせてもらいます。
例えばイギリスでは、これも十分に正確とは言えないんですけれども、司法精神病棟的なものが約三千ベッドある。それを日本の人口に換算すると、数千という単位になってくるんですね。
もう一度ちょっと坂口大臣にお伺いしたいんですけれども、そうしたら、先ほどの八百から九百と数千というのは全然けたが違うんですけれども、何千もつくるというたぐいのものではないですか。
○坂口国務大臣
現在のところ、それほど多くの数字になるとは考えておりません。
◎山井委員
何年入るかわからない、また重大な他害行為というものの範囲も非常に広いという中で、ますますこの法案、わからない点が多いんですが、その根本的なわからなさは、先ほどの五島議員の質問にもありましたが、オックスフォード精神医学教科書なんですね。これはきょうの資料に入れさせていただきましたので、ちょっと坂口大臣も一緒に見ていただければと思います。
5の1ですね。これは非常に重要なポイントです。坂口大臣がこれを引用して答弁をされたわけで、オックスフォード精神医学教科書によりますと、精神科医が予測を行うことが当然とされており、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能であると考えておるところでありますと。
先日の平岡議員の質問で、何か坂口大臣の答弁はこの本のいいとこ取りをしたのであって、ほかの場所にはもっと予測が困難であるということが書いてある、全部読まれましたかというような質問が先週あったかと思うんですが、ちょっと意地悪な質問になるかもしれませんが、大臣、その後、残りの部分というか、これは読まれましたか、原本。
○坂口国務大臣 オックスフォード精神医学教科書を引用いたしましたのは、精神障害者が暴力に及ぶリスクにつきまして精神科医が予測することは国際的に当然のこととされていることの根拠を例示したためであります。
確かに、同教科書におきましては、おそれの判断の難しさでありますとか、それを慎重に行うべき旨が記述されていることも事実でございます。それでもなお、精神科医にはこのような予測が求められていますことや、予測を行うための具体的な詳細な指針や手法でありますとか、そうしたことが記述をされておりまして、決して都合のいいところだけを申し上げたわけではございません。
これは非常に難しい診断であろうということは、率直に私もそう思いますけれども、しかし、ヨーロッパの諸国におきましても、こうした診断技術が積み重ねられておりますことも事実でございます。
◎山井委員
質問を続けたいんですが、この議場を見ると、賛成している与党の議員が少ないじゃないですか。こんな重要な議論をしているのに。どうなっているんですか、これ。定足数に達しているんですか、これ。いいかげんにしてくださいよ、本当。三百万人の精神障害者の人生と人権がかかっているんですよ。反対している人間が来ていないんだったらいいけれども、賛成している方がどないなっているのか。(発言する者あり)
○佐藤(剛)委員長代理
理事は、私も理事をやっていますが、こちらに理事二人おりますから。続けてください。(発言する者あり)続けてください。(発言する者あり)今数えていますから。ちょっと待ってくださいよ。きちんとやりますから、きちんと進行を。(発言する者あり)今調べさせています。(離席する者、退場する者あり)
〔佐藤(剛)委員長代理退席、森委員長着席〕
〔森委員長退席、園田委員長着席〕
○園田委員長 それでは、この際、休憩いたします。
午後零時二十八分休憩
――――◇―――――
午後一時二十六分開議
○園田委員長
休憩前に引き続き会議を開きます。
質疑を続行いたします。山井和則君。
◎山井委員
先ほどの坂口大臣の答弁の続きですが、先日の衆議院の本会議の答弁で、「慎重に鑑定を行うことにより、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能である」ということをオックスフォードの精神医学教科書から答弁をされたわけでありますが、この資料、5の1を皆さん見ていただけますでしょうか。
まず、これは厚生省からファクスでいただいたものですが、「司法精神医学」というところに、この項目、「危険性、リスク、予測の確率」と出ております。ここを一緒にちょっと坂口大臣も読んでいただきたいと思います。5の1というところであります。下線が引いてありますが、どういうことが書いてあるか。「患者が他人に害を及ぼすように振る舞う確率を評価することは、正当な臨床活動である」ということを書いてあります。しかし同時に、そもそもこの章のトップには、「予測はきわめて困難である。とりわけ、将来については。」ということが書いてあるわけですね。
次のページ、またお願いします、三ページです。ここの下線の下の部分を読みますと、「精神保健の専門家は、患者が破壊的な行動を行う可能性を見極め、そのような害を防止できると期待されていることは自明のように思われるが、その自明性は観念論的で無思慮なものである。」「そのようなリスクを効果的に予測できるということも明白ではない。治療者がリスクの予測に直面していかに行為すべきかということも明白ではない」と書かれております。
また、次のページ、四ページには、二重下線のところ、「精神保健の専門家は、次のような基準が満たされたときのみ、リスク・アセスメントに従事すべきである。」と書いてあります。その四番目には、「リスクは確率の言葉で表現され、誤りを免れない性質であり、予測は潜在的に変動しやすいことを明白に述べること。」
それで、最後の十九ページのところ、次の次のページですが、十九と右下に打ってあって、上に5の5と書いてあるところには、「しかし、最終的に、我々はそのような予測的かつ予防的機能を遂行する我々の能力については謙虚でなければならない」というふうにこの章は結論づけられているわけです。
そう見ると、まさに5の1に戻ってもらって、最初の章のトップに書いてありますように、「予測はきわめて困難である。とりわけ、将来については。」ということがこの教科書に書いてあるのであって、坂口大臣が答弁された、「慎重に鑑定を行うことにより、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能である」というようなことは、ここには書かれていないんです。
大臣、そのあたり、この本に書いてあることと答弁がずれていると私は思います。これはやはり修正すべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○坂口国務大臣
私は、全体として書かれていることは、診断は可能であるけれども、しかし謙虚でなければならない、大変その診断というのは難しい問題であるということが書いてあるということだと思います。
◎山井委員
まさにおっしゃいましたように、今のニュアンスと、ここで断言されている「有無を予測することが可能である」というのは、かなりニュアンスが違うというふうに私は思います。
それで、例えばニューヨーク州の客員研究員のステッドマンさんという方の論文によると、「文献が示しているのは、通常精神科医は裁判において、正しく予測するよりも、四から六倍の回数で誤るということです。そして最良の場合でも、一回の正しい予測に対して二回誤るということです」というふうに書かれておりますし、また、同じアメリカのステッドマンの論文では、「暴力行為ありと判断したものの、この的中率は一対六・二、つまり、的中した者一人に対し、的中しなかった者が六・二名の比率になっていた」というような論文もあります。
そう考えてみると、同じ対象行為を行うことの予測というのは非常に難しいという気がいたします。これは考えてみれば、私は、ハンセン病のまさに坂口大臣が取り組まれた問題とも多少似ていると思うんですね。本来入院治療を受けなくてもそのような対象行為を繰り返さなかったであろう人も、今回の法案の中で一緒に強制入院をさせられてしまうリスクというのは非常に高いということだと思います。それで、そのことを御認識いただきたいと思います。
次に、私の資料の中で四ページを見ていただければと思います。
話は日本のことに戻りますが、この四ページにありますように、「強制入院運用に地域格差 国の診断基準明確に」という読売新聞の記事があります。これによれば、強制入院の運用については、措置入院の患者数は人口規模当たりで十四倍の差があった。二十年以上の患者の割合も、山口が六九%なのに京都と千葉は〇%。
次の4の2を見ていただけますか。例えば、人口十万人当たりの措置患者数は、一番低い大阪が〇・七人なのに鹿児島では九人、つまり十二倍以上も開きが出ているわけです。このような現状。
そして、一番最後のページになりますが、「「社会的入院」なお十万人」という記事。この中でも、新規入院患者の五割近くが三カ月以内に退院するようになったが、入院患者全体の約半数が五年以上入院したままで、それで、十万人が社会的入院ということになっているわけですね。十万人以上が社会的入院、そして、新規入院患者の五割近くが三カ月以内に退院しているということは、今二十年以上入院している一万七千人以上の方というのは、本来適切な医療を受けていられたら地域に帰れているはずの人なんですね。
午前中の議論に戻りますが、こういう社会的入院の人すら帰れないのに、今回の法案の対象の人を帰す、そういうことは非常に説得力に無理があると思います。このような現状に対して、坂口大臣、どう思われますでしょうか。
○坂口国務大臣
この措置入院の方につきましては、それぞれの地域によります事情もあるんだろうというふうに思いますから、この数字をもって一概に多い少ないということを私は言うことはできないというふうに思いますが、こういう状況を打開していきますためには、これは精神病の方一般はもう当然のことでありますけれども、重大な犯罪を犯した人においてすら、やはりそれなりの治療を行い、そして、それは地域に戻すことができ得るということになれば、一般の精神病の皆さん方に対しましても、その問題は大きく波及していくだろうというふうに私は思います。
そうした意味でも、今回、こうした重大な犯罪を犯す可能性のある人に対する問題につきましても、入院とそして地域の問題と十分にタイアップしていけるという姿勢を示さないといけないというふうに思っております。
◎山井委員
先ほどの答弁の中でも、予測というものは非常に難しい面もあるということを、坂口大臣、オックスフォードの教科書から答弁もされましたけれども、要は、同じ対象行為を行うということのおそれの判定が非常に不確定である。となると、繰り返しになりますけれども、実際は入院をしなくてもよかった人が何年も入院を強いられるケースがある。こういうことに関して、先ほど申し上げましたように、施設に、療養所に入所の必要のないハンセン病の元患者の方々がずっと入院されていた、その強制隔離の人権侵害の問題と似ていると思うんです。
ですから、まさに昨年、職を辞してでも控訴は断念させるということをおっしゃった坂口大臣だからこそお伺いしたいんですけれども、今回の法案によって、ハンセン病の元患者の方々に対するのと似たような誤った長期にわたる強制隔離というものが起これば、これは人権侵害ではないか。このようなことについて、大臣は、ハンセン病の解決にあれだけリーダーシップを発揮された大臣だから聞くんですけれども、どう思われますでしょうか。今回のおそれの判定というのは百発百中ではないわけですよね。
○坂口国務大臣
医学上の診断でありますから、百発百中ということには、それはいかなる病気のときにもなかなかいかないだろうと思います。
しかし、これは、原則としまして六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することになっておりまして、半年ごとにチェックをしていく。そして、裁判官とそして医師との間で協議をして、この人がさらに入院が必要であるかどうかということを議論していく。先日も、私はこの二人の間で意見が異なったらどうなんだということを聞いたわけでございますが、そうしましたら、その中で軽い方を採用すると。例えば、一方はもう少し入院だ、一方はもう退院させてもいい、こういうことであれば、退院させていいという方を採用する、こういうことのようでございますから、そうしたことを継続していくことによって、委員が御心配になりますように、一人の人を長くそこに必要以上に入院をさせていくということを避けることができ得るというふうに思っております。
◎山井委員
改めて今の点は非常に重要だと思うのでお伺いしたいんですが、先ほど申し上げましたように、イギリスでもドイツでも当初考えていたよりも長期入院の傾向が出ている。そして、地域医療の受け皿が不十分だということで長期化している。そういうことが海外で懸念されていて、また、これについては、本当に正確にこういう同じ対象行為のおそれというのが判定できるかどうかもわからない。そういう本当にこれはわからないことが多過ぎる法案なわけですね。
繰り返しになりますけれども、法案対象者の人権ということから、坂口大臣、ハンセン病と同じような問題にならないですか。あれだけハンセン病の問題に対して、人権、強制隔離はよくないということで、職を辞する覚悟でという取り組みをされた坂口大臣が、この法案に関してはそういう誤った診断のおそれは少ないですから大丈夫ですと割と簡単におっしゃるのが、私はちょっと理解はできないんですけれども、いかがでしょうか。
○坂口国務大臣
人権にかかわらないように十分な配慮をしなければならないのは御指摘のとおりだというふうに思います。
しかし、一度そういう重大な犯罪を犯した人に対して、再びその人がそういうことを犯さないようにしてあげることが大事でありまして、そのことが全体に精神病患者の皆さん方に対する一般の考え方というものを変えていくことに私はなると思っております。だから、そのことにつきましては十分な配慮をやはりしていく必要があるというふうに私も認識をいたしております。
◎山井委員
今回の、来週行います視察で、こういう東京精神病院事情という資料を見せてもらいました。これを見ると、アンケート調査によって各病院の点数がされています。
例えば、先日行った武蔵病院は三十四点と、この中でトップなんですね。首都圏のあたりでトップのところをいっているわけです。今度行く松沢病院も三十点と、これもトップレベルです。片や八点、十点という、本当に悲惨な状況のところがあるわけです。そういうところは、割と、もう青梅とか視察に行けないぐらいの山の中の方にあるわけですね。それで、そういう遠くの山奥で、実は今回の視察に行きたいということでいろいろ問い合わせたら、当日は院長がいないからだめだとか、そういうところは視察も受け入れない。そういう本当に町から遠く離れた精神病院で、五年も十年も多くの患者さんが人権侵害で放置されている。
今回の答弁で、森山大臣も坂口大臣も、この法案は良質な医療を提供して社会復帰してもらうことを目的とするということを胸を張って何度も答弁されている。そこまで胸を張って良質な医療を提供して社会復帰してもらうということを強調されるんだったら、今こういう町外れの精神病院に十年、二十年と入院して、そして社会的入院で退院できない人にも、どうして同じように良質な医療を提供して社会復帰させる努力をされないんですか。そのことをされずに、この法案で対象の四百人だけはそういうことを言うというところに、この法案の最もまやかしと説得力のなさがあるんじゃないでしょうか。
そこはセットで提示すべきだと思うんですが、いかがですか、坂口大臣。
○坂口国務大臣
一般精神病の皆さん方に対します問題もありますことは、十分に私も知っているわけでありまして、そして、今審議会におきましてもそのことをやはり審議していただいておりまして、間もなく審議会の結論も出ることになっております。
そして、それを踏まえまして、一般の精神病の皆さん方の治療のあり方につきましても、改革するところは改革をして、そして長い間そういうふうに入院をしておみえになる皆さん方を受け入れるために、それじゃどうしていったらいいかといったことも含めて議論を深めて、そしてそれに対する対応を考えていきたいというふうに思っております。
◎山井委員
本当にそういうことをおっしゃるなら、私も実は二年前から、社会的入院、この十万人いるのをどうするんですかと、国会に来て最初の質問から、私は津島大臣から言っているんです。そのときから、やる、やる、やるとおっしゃって進んでいないわけなんですね。ですから、この審議はまだ続くと思いますので、その中で明確な、いつまでにこの十万人の受け皿をつくるんだということを示してほしいと思います。
きょうの私のこの五十分の答弁を通じて、いかにこの法案が不確定で、本当に人権侵害になる危険性の非常に大きい、何年の入院になるかわからない、受け皿も整備されているかどうかわからない、そういう非常にあやふやで危険な法案であるということを私は感じました。
それとともに、先ほど指摘しましたように、法務委員会の方々は、出席をしておられた方はおいておいて、来られなかった方はやはりこの法案に余り関心がないんじゃないかという気がいたします。
そういう意味では、これから徹底した慎重審議と、この法案の廃案を再度私は要望して、質問を終わります。
○園田委員長 水島広子君。
○水島委員
民主党の水島広子でございます。
まず、冒頭に一つお願いしておきたいんですけれども、午後の委員会になりましたら出席されている議員の数は非常に多くなったようですけれども、それとともに何か私語の量もふえてきたようでございまして、一番後ろの席で聞いておりましたところ、なかなか審議が聞き取りにくいところがございました。非常に重要な審議でありますし、私も本当に答弁を一言一言聞き漏らさないようにしていきたいと思っておりますので、ぜひ委員の皆様には御協力していただけますようにお願い申し上げます。
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